マンガナイト読書会―あの人の持ってきたマンガは何だ?編

0017_largeマンガナイトは2014年7月20日(日)、主催イベント「マンガナイト読書会―あの人の持ってきたマンガは何だ?編」を開催します。 イベントのメーン企画は、参加者が持ってきた作品をお互いに当てる推理ゲーム。作品への愛が問われます。
参加のお申し込みは下記のフォームからお願いします。

推理ゲームは、ツブヤ大学が開発した読書ゲーム「ブックポーカー」をマンガ用にアレンジしました。ゲームは

  1. 数人のグループに分かれて、それぞれが持ってきた作品を紹介(このときタイトルや作者名、出版社名は隠しておきます)
  2. 全員が紹介したあと、作品をオープンにし、誰がどれを持ってきたのか考えつつ読書タイム
  3. 誰がどのマンガを持ってきたのか、紹介を通じてどのマンガを読みたいと思ったのか回答

と進めます。新しい作品に出会いつつ、参加者の感想や人となりがわかってしまいます。
さらに今回の懇親会には「マンガ飯」も登場。「Café & Barジャノメ」のじゅんこさんがおいしいごはんを作ってくれます。あのマンガ作品でキャラクターが楽しむご飯を、みんなで食べてみませんか?

最近マンガを読んでいない方から、ヘビーリーダーの方まで、マンガを介して気軽にコミュニケーションが生まれ、新しいマンガに出会えるイベント。みなさまのご参加をお待ちしております。

※過去のイベントの様子はこちらから

概要

【マンガナイト読書会―あの人の持ってきたマンガは何だ?編】

内容
参加者が持ってきた作品を当てる推理ゲーム「ブックゲーム マンガ版」
日時
2014年7月20日(日)17:30(開場17:00)~19:30 ※懇親会 19:30~
持ち物
お気に入りの単行本2作品とマンガへの興味 ※会場に持ってきた段階では、作品名や作家名は伏せておいてください
参加費
1,000円(ワンドリンク・軽食付き) ※懇親会参加費:2,500円
定員
20名(事前予約制)
会場
レインボーバード(スタジオスペース)
文京区小石川2-1-13後楽園ビューハイツ703
後楽園駅・春日駅6番出口徒歩2分

ワークショップ「まんがかるたの描き方教室」

7月19日(土)13:00~15:00にワークショップ「まんがかるたの描き方教室」を立川まんがぱーくにて開催します。詳細とお申し込み(対象は小学生3~6年生)はこちらになります。

僕たちは多様性と向き合えているだろうか

「21世紀は多様性の時代だ」と言われ、「ダイバーシティ」という単語に接する機会も増えた。
でも、まだ私自身この「タヨウ」を捉えきれていないのだ。これはまずいなという私の焦りから今回は始めよう。

価値観の多様化という言葉は既に私たちの手元にあり、その存在は当然のこととして受けとめられていると言って良いだろう。しかし、その多様性を私たちが許容しているだろうか、あるいは多様であることの恩恵を私たちは得られているだろうかというとかすかに疑問が残る。そんなことを考えさせられる作品が手元に届いた。唐沢千晶の『田舎の結婚』である。

田舎の結婚』はそのタイトル通り、田舎に暮らす男女が恋愛を経て結婚に至るストーリーをまとめたオムニバス作品だ。畜産農家の息子、花火工場の跡取り娘と各話ごとに主人公たちがおかれている状況は異なるが、共通して印象に残るのは価値観の多様性を受け入れることで自分たちなりの幸せを獲得していることである。

一流大学を出れば、一流企業に勤めれば、都会で暮らしていれば…それらの条件は(全てがそうであるとは保証できないが)経済的な豊かさや社会的なステータスを高める為に必要だと考えられている。何も現代に限ったことではなく昔から「都に行けば」「良家との縁談が」といった話はあるわけだが、現代のように人生の選択肢が広がった中でも、こうした成功のためのステレオタイプが多くの人たちの間で共有されていると言うのはある意味異様でもある。

こうした、なんだかわからないけど私たちが心に抱いてしまう共通の理想像とそれに伴う圧力について、正面から向き合った思想家がハンナ・アーレントである。アーレントは、主体性を持たずに他人から与えられた理想を共有することによって生まれる連帯を「全体主義」と呼んだ。みんなが足並みをそろえて共通の理想に向かって進んでいけばきっと社会は良くなるはずという思い込みこそ危険だと彼女はいうのだ。

「平和」や「幸福」に向かってみんなが努力するのなら、なにも悪くないのでは?と考える方もおられるだろう。しかし、アーレントは「平和のため」とか「幸福のため」という正しさを疑えないスローガンの下に他者が虐げられたり排除されたりすることがあってはならないと言っているのだ。「あいつは非協力的だ」とか「変わったことをする奴だ」というように。多様な人がそれぞれの幸せに向かって進み、互いの幸せを容認できるように議論を重ねていく状態が人間本来の活動であるというのがアーレントの主張だ。

さて、話を『田舎の結婚』に戻そう。各話に登場する主人公達は最初何らかの劣等感を持っている。それは容姿、学歴、家族関係であり共通するのは田舎であるというものだ。例えば第一話の冒頭で語られる、「二両編成の電車が一時間に一本。コンビニまで車で5分。買い物は隣町のジャスコで。山の中には鹿どころか熊もいて、満月の晩には畑で猿が踊る。なにもない、それが俺の住んでいる村」という風に。

しかし、彼らはそんな状況におかれながらも、関係を深め、次第に自分だけではなく相手の幸せは何かを考え出す。自分が悩んでいるように相手も悩んでいるのでは、と思いやる気持ちが生まれ、その次に待っているのが、自分たちなりの幸せとは何かという問いだ。世間一般でいわれている幸せとは違ったとしても自分たちが、さらに自分たちを支えてくれる人たちが幸せであるなら、自分たちで決めた道を進もうという勇気が生まれる。相手が自分と違っているからこそ補いあえるということに気付くのである。

その証拠に、先の生活環境に対する心象表現は第一話の最後にも出てくるが、その時は全く違ったイメージで読者に届く。自分で決めたオリジナルの道であるからこそ他人との違いを誇れるし、他の幸せへの道も尊重できるようになる。正に多様性、そしてその許容とはそういうことではないか。

ただ、こうして偉そうに話している私自身についても、同様に気をつけなければいけないことがあるのにお気づきだろうか。一つはこの作品をもって「田舎は素晴らしい」という牧歌的な田舎信仰としてこの文章を書かないこと。そしてもう一つは「結婚は素晴らしい」という伝統的な家庭信仰を宣伝する内容に陥らないことだ。

当然、この作品を読み終えて「田舎って良いな」「結婚って良いな」と感じられる方もいらっしゃるかもしれない(正直、農学部出身で地方生活を送る身としてはとても嬉しい)。しかし、これらの設定に共感を覚えない方が居るとしたら、試しに谷川史子の『おひとり様物語』(講談社、Kiss連載)も読んでみてほしい。

こちらは反対に都会に住むおひとり様女子達が結婚や恋愛と向き合いつつ、自分にとっての幸せを見つけているオムニバス作品だ。どうしても『田舎の結婚』の「結婚=幸せ」という結末や田舎で暮らすことのドロドロを描かないというシチュエーションに違和感を覚える方がいらっしゃれば、また違った状況の中で、多様な生き方を選択していく若者たちの細やかな心象描写に触れることが出来るだろう。

田舎の結婚』や『おひとり様物語』のような作品が描かれる背景として、「タヨウだ、タヨウだ」と言われて、確かに昔に比べて私たちの人生の選択肢は遥かに多様になっていたとしても、なにか周囲の目を気にしたり、旧来からの価値観に合わせてしまってその多様さの恩恵を体感できていない人が一定数いるからではないだろうか。多様な選択から自分で選び出したことに対する責任は当然自分が負わなければいけない。その一歩を踏み出す後押しをしてくれるのがこうした作品なのだ。

田舎の結婚』が最も強く伝えようとしているのは、表面上の田舎での幸せな結婚ではなく、多様な幸せのあり方、人生の送り方があるということであり、その存在を認め合うことの重要性だ。それを伝えようという作者の誠実さが、この作品をただの少女マンガではない存在にしているといって良い。

納得。あぁ、スッキリした。

わざわざアーレントに登場してもらったのは大げさだっただろうか。でも、その価値がある作品だと私は自信を持って言おう。

文=いけだこういち
1975年、東京生まれ。マンガナイト執筆班 兼 みちのく営業所長。好きなジャンルは少女マンガ。谷川史子、志村貴子作品をマイ国宝に指定している。東京に妻子を残して単身みちのく生活。自由にマンガが買えると思いきや、品揃えが良い書店が近所に無いのが目下の悩み。研究論文も書かなきゃね。

「マンガアワードプロジェクト」第一弾企画トークイベント「漫画家の登竜門を再考する―新人マンガ賞の意義と新たなプラットフォームの可能性―」

7月11日(金)19:00〜(開場18:30)開催のNPO法人中野コンテンツネットワーク協会主催「マンガアワードプロジェクト」第一弾企画トークイベント「漫画家の登竜門を再考する―新人マンガ賞の意義と新たなプラットフォームの可能性―」に代表山内康裕が出演します。

非生物の「かばん」に語らせる新たな表現手法

ウラモトユウコの最新作が届いた。かばんとその持ち主を巡るオムニバス作品『かばんとりどり』だ。
彼女の特徴であるさらりとした人物描写やシンプルな背景の描き込みは変わらないが、読み終えてみると過去作とは異なる印象が残った。さらっと、軽快に受けとめられる書籍のイメージと反して、とても濃厚なドラマを見終えたときのような感覚になったのだ。

淡白に仕上げられているはずの作品が、なぜこんなに深く印象に残るのだろうか。研究者の悪い癖で、一旦考え出すと答が見つかるまで止まれない。そして、行き着いた答は「この作品には主人公が2人ずついるからではないか」というものだった。

まず、本作『かばんとりどり』について説明しておこう。構成はオムニバス作品なので1話完結。主人公も、一部姉妹や同僚でリレーする事もあるが各話ごとに交代する。女性である事が共通している以外、主人公の年齢、職業も小学生からOLまで様々である。そうした彼女達と彼女達が持つかばんを中心に展開される作品だ。

私が読後の不思議な感覚を解くための足がかりを得たのは、帯にある「女子のかばんには理由がつまっている。」という一文であった。そのまま読んでしまえば「なんのことだろう」と流してしまうが、読後に触れると、ハッとさせられる。勝手に言い換えるなら「女子のかばんは持ち主の分身である」ということなのだ。

あまり「女性」「男性」をわけて議論する事を好まない人もいるかもしれない。しかし、一般的に男性はかばんに機能を求める傾向が強いように思う。どれだけ荷物が入るか、ポケットが何箇所ついているのか、防水素材か云々。いわばツールを格納、運搬するためのメタツールとしてかばんを選んでいるのだ。少なくとも私はそうである。

一方、女性は機能よりもシチュエーションを考慮してかばんを選んでいるのではないか。なぜなら女性がいう「ツカエルかばん」というのは、多くの場面や服装に合わせる事が可能なかばんのことで、容量や耐久性は二の次にされていると感じるからである。

そして、かばんの中身=アイテムについても男女で違いがあるのではないか、と私はさらに仮説を掘り下げた。男性は前述のようにかばんにツールを詰め込む感覚で、いわば日曜大工のツールボックスの延長のようにアイテムを詰め込む。だから、例え中に収まったアイテムについて何かを語るとしても、それは個々のアイテムのスペックであって、決して叙情的なストーリーでは無いはずだ。

一方、女性のかばんの中身にはストーリーが欠かせない。本作中にも幾度と現れるが、その日(あるいは今後)起こるであろう事態を想定し、それらに対応できるようストーリー上にアイテムが選定される。そして想定されたストーリーに合わせてアイテム達が機能する事により、それら自体にストーリーが染み込む。ゆえに、かばんに入っているアイテム達が一体となってストーリーを構成すると同時に、個々のアイテム自体もストーリーを背負っており、かばんの中に時間と奥行きをもった意味の多次元空間が発現しているのである。こんなに熱を込めて書くと、女性のかばんに対して幻想を抱き過ぎだと思われるだろうか。

だが、あえて仮定してみたのだ。「女性のかばんは持ち主のストーリー無しには成立しない、持ち主の分身となる存在である」と。その検証のために、女性のかばんの中に入っているアイテムを全て取り出して並べたとしよう。そして、それらを同じ機能をもつ別のものと置き換えたらどうなるだろうか。そう、使い込んだ手帳を(情報は移行させて)別の新しい手帳に、週末アイロンをかけたハンカチを新しいハンカチにと言った具合に。果たして機能としては同じかばんが出来上がるはずだ。だが、それは何の価値も持たない存在になってしまうのではないか。

すなわち女性のかばん世界においてストーリー(あるいはコンテクストと言っても良い)の欠落は、その存在意義を決定的に失わせる可能性が高いのである。つまり、かばんとその中身は持ち主自身のアイデンティティや積み重ねてきた人生そのものであり、それをまとわない品々で取り繕われたところでそこに自分を見いだす事ができなくなる。正に、かばんは記号の集積によって成り立っているのではなく、持ち主を象徴する存在であり、かばんは持ち主の分身になっているのだ。(男性は機能さえまかなえれば、多少アイテムが入れ替わっても納得するかも知れない。僕だったら余程のこだわりの品以外は新しい事を喜んでしまうかもなあと思う。ここについては、より時間や手間をかけて調査する必要があるだろう。)

ここまで書くと、私がこの作品から感じ取った不思議な印象の原因を「この作品には主人公が2人ずついる」と結論づけた理由がおわかりいただけるのではないだろうか。各話では主人公が行動し、発言しているのと同時に、その傍らで分身たるかばんが寡黙にもう一人の主人公を演じている。それゆえに主人公の存在感は相乗的に大きくなるし、彼女達のプロファイルもかばん内のアイテムを介して再述、共有されるので、個々のキャラクターがかぶらず、読み飽きる事が無い。

マリオ・プラーツの言葉を変えていえば「あなたのかばんに何が入っているか言ってごらんなさい。あなたがどんな人間か話してあげますよ」というわけだ。

印象に残るマンガを作るための表現を思い浮かべると、密な描き込みや壮大なストーリー、強烈な台詞、奇想天外なキャラクターなどが思い浮かぶ。しかし『かばんとりどり』で用いられた手法はそれとは全く異なっている。それは作者の個性である、さらっと軽快な世界観を保ったままに主人公にまつわるストーリーを増加させ、濃厚な作品を味わったかのような感覚を生み出すものである。

納得。あぁ、スッキリした。

おそるべし、策略家、ウラモトユウコ(とその編集者)である。

文=いけだこういち
1975年、東京生まれ。マンガナイト執筆班 兼 みちのく営業所長。好きなジャンルは少女マンガ。谷川史子、志村貴子作品をマイ国宝に指定している。東京に妻子を残して単身みちのく生活。自由にマンガが買えると思いきや、品揃えが良い書店が近所に無いのが目下の悩み。研究論文も書かなきゃね。

「FLASH」2014年6月10日号記事に掲載されました

「FLASH」2014年6月10日号記事「『進撃の巨人』
絵がヘタなのに3千600万部売れたワケ」にて、代表山内康裕の分析「新しい組織論が描かれている」が掲載されました。

「マンガとコミュニケーション」の可能性・前編

東京のビジュアルカルチャーをバイリンガルで世界に紹介しているメディア「CAT’S FOREHEAD」のインタビュー記事『「マンガとコミュニケーション」の可能性・前編』にて代表山内康裕が取材を受けました。

マンガナイトセレクト ジャケ買いマンガ5選~日本マンガのブックデザイン~

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「ジャケ買い」とは、内容ではなくパッケージ(マンガの場合は「表紙」)に惹かれて、物を買うことを言います。ジャケ=ジャケット(≒表紙)の意味です。数ある書籍の中でも、マンガほど自由度が高く、創造性を発揮できる「表紙」をもつものはないのではないでしょうか。

というわけで、今回は、「表紙」に着目して、特に魅力のあるマンガを選んでみました。(もちろん、内容もお墨付きです!)改めてみると本当に様々な表現がありますね。表紙をみるだけで内容を想像してワクワクしてしまうようなものもあれば、マンガ家・出版社等の想いを反映したものもあれば、はたまた、マーケティング戦略のひとつとして重要な役割を果たしていたりと、表紙から今の日本のマンガ文化そのものが透けて見えるようです。
みなさんもこれを参考に、本屋でマンガの「ジャケ買い」をしてみてはいかがでしょうか。

『もやしもん』(石川雅之)

テレビドラマやアニメ化されるなど、今でこそ国民的な認知度を誇る本作も、第1巻発売時には知る人ぞ知る存在だった。ただ、他の作品とは一線を画す立ち位置であることは、書店に並べられた単行本の装丁からも感じられた。
タイトルよりもまず目に入ってくるのは、帯に書かれた、大豆インクを使ってプリントされている事と、古紙100%再生紙を使用している事を伝える文言。作品のあらすじやアオリではないのだ。だが、これは本作のフィールドである「農業」が綺麗な作物や加工品をつくる事を目的とするのではなく、安全で、安心で、そして結果的に美味しい食品を提供する事を第一に掲げていることとピッタリ重なる。
「装丁は書籍の顔だ」と言われる中で、過度に化粧させず、作品の性格を伝えようとする誠実なデザインがここにはあるのだ。(いけだこういち)

『う』(ラズウェル細木)

たった一文字のタイトルに、「うな丼」のアップを描いたカット。帯にある「鰻(まん)画」の文字が全てを物語るように、世にも珍しい「ウナギだけ」を扱った作品だ。1巻完結予定でスタートしたが、関東・関西の違いや、中華、フランス、イタリア料理での食べ方、すき焼きや燻製などの調理法と多岐に渡った結果、第4巻(99話)まで続いた。「諸国“鰻”遊」「やる気“鰻鰻”」など、雑誌掲載時の欄外に掲載していた文字も単行本に収録し、隅々までウナギ尽くしとなっている。今回、表紙を紹介した第2巻は内容も脂がのっていて、コラムには「土用の丑の日」考案で有名な平賀(源内)家の7代目当主、平賀一善氏や、苗字が「鰻」さんも登場。資源の枯渇が不安視されるウナギを、より深く味わうために読んでおきたい。(旨井旬一)

『暗殺教室』(松井優征)

各巻の表紙の原則は、単色カラー+主要キャラクター主要キャラクターの「殺せんせー」の顔というシンプルなもの。第1巻は黄色からスタート。第5巻の白色や第9巻のチョコレート色など、あまり単行本の表紙には使われない色も使う。作者のコメントなどをみると、微妙な色の調整や殺せんせーの顔の配置など、非常に考えられたデザインのようだ。実際書店では、淡い色合いや人物画が多い中で、単色デザインは逆に目立つ。「あえて説明せず」という戦略の裏には、作品への自信、強気の姿勢が感じられる。すでにヒット作を持つマンガ家による発行部数の多い少年誌での連載作品であり、インパクトのあるタイトル。再度単行本の表紙で内容を説明する必要はないと考えたのではないだろうか。学校という閉じられた空間のなかで、殺せんせーの「暗殺」を通じた中学生の成長譚を描く少年誌らしいストーリー。落ちこぼれだった生徒たちが、少しずつ自信をつけていく展開は、読者に勇気を与える。そんな話の展開とあわせて、どこまで「単色表紙」を貫けるか、気になるところだ。(bookish)

『秘密―トップ・シークレット』(清水玲子)

近未来の日本を舞台に、生前の脳が見た映像を再現する「MRIスキャナー」を使った捜査で、難事件を解明していく。その特権を与えられた科警研の苦闘を描いている作品である。第1巻では、単色の背景に、男性とも女性とも取れる薪(まき)の中性的な顔を挟んで「秘密」という文字が配置されており、そのシンプルで大胆な構図は、人間味が感じられないほど丹精で美しい顔を一層引き立て、見る者の目を奪う。
冷たいような何かを諦観しているかのような視線の先に、これから始まる膨大な、重大な秘密を予感させてくれる。
また、表紙を開くと一枚のトレーシングペーパーが遊び紙として挟まれており、その次のページの中表紙が薄く透ける仕様になっている。その絵の美しさにも息を飲むので、是非手に取ってもらいたい。(ヤマダナナコ)

『あめのちはれ』(びっけ)

雨の中で佇んでいる制服姿の男子女子。白い背景と青くにじんだ彩色が瑞々しさを感じさせる装丁である。「あめのちはれ」は男子校と隣接する女子高を舞台にした、ファンタジックな学園ストーリーである。物語の根幹となる大きな設定は少女漫画らしくふんわりまとめられているが、時折出てくる生活風景や細部の描写にはリアリティが感じられる。コミックスは1巻ずつテーマカラーが異なっており、次巻はどの色になるか当ててみるのも楽しい。これから来る雨の季節に、部屋の中で学生生活を思い出しながら読んでみてほしい。(Kuu)

マンガは拡張する[対話編]しりあがり寿×山内康裕3/3「薮に入っちゃって、後ろ見ても誰もいないっていう孤独。」

DOTPLACEでの代表山内康裕の連載「マンガは拡張する[対話編]」、しりあがり寿×山内康裕 3/3「薮に入っちゃって、後ろ見ても誰もいないっていう孤独。」がアップされました。2014年春の紫綬褒章を受章したしりあがり先生からコメントの追記もあります。

マンガナイト5周年に伴いロゴをリニューアル

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2014年5月10日に、マンガナイトは5周年を迎えました。それに伴い、マンガナイトの活動目的である、「マンガを介したコミュニケーションが生まれる状況をつくる」「実験的且つ多様な切り口でマンガの新しい可能性を探る」、この二つの軸が伝わるよう、ロゴを一新。

ユニット名の文字をいくつかのパーツに分け間口を設けることによって、色々なところからの参入が可能なことを表現。また、よく見るとその切り口が様々であったり、濁点がひっくり返っていたりすることによって、固定観念に囚われず、時には遊びながら挑戦して行くマンガナイトの姿勢を表しています。

schoo「マンガで読み解く現代社会学」がアーカイブされました

ネットで無料受講できる授業を生配信している「schoo」にて配信済みの授業「マンガで読み解く現代社会学」がアーカイブされました。代表山内康裕が登壇しています。※アーカイブ授業は、会員登録すると月1授業無料で受講できます

マンガナイトセレクト お仕事マンガ5選~マンガでわかる日本のお仕事事情~

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4月は新生活がスタートする季節。これを読んでいる方の中には、今年から新社会人となった方もいるでしょう。社会人になって久しい方も、新社会人だったころの自分を思い出しながら、初心を返って襟を正したり、自分の変化や成長を実感する季節かもしれません。
今回は、そんな季節に相応しい、「お仕事」を描くマンガを選びました。

ところで、海外の方にとって、日本人の「働く」イメージは「勤勉」「長時間労働」「ものづくりに長けている」等でしょうか。確かにそういう面も、いまだに色濃くあると思います。でも、実際はそれだけじゃない。ぜひ、日本の働き方そのものや、働くことに対する価値観の多様性を感じとって、作中の登場人物たちと一緒に「お仕事」を疑似体験してみてください。

『カレチ』池田邦彦

日本が世界に誇るサービスのひとつに鉄道があげられる。車両や運行システムだけでなく、それに関わる人々の努力の上に世界一正確なサービスが実現しているのだ。池田邦彦『カレチ』は貨客列車の車掌を主人公に鉄道に関わる人たちの仕事と人生を描く作品だ。ただ、その中に描かれているのは明文化されたルールを守るだけではなく、仕事に誇りを持ちながらも、人情厚く、臨機応変に利用者第一の判断をする、倫理的な鉄道員たちの姿である。殺伐としがちな現代の職場において、欠いてしまいがちな「思いやり」を再認識させてくれる名作といえる。(いけだこういち)

『宮本から君へ』新井英樹

大学を卒業したばかりの主人公・宮本は都内の文具メーカー新米営業。右も左も分からないながらに先輩や取引先に噛み付くことだけは一人前。とにかくがむしゃらで社会の理不尽には屈せず、自分の理想をところ構わず主張し、そのたびに現実との乖離に打ちのめされる日々。たまに情熱がいい方向に行くが、情熱だけではうまくいかないのが仕事である。新社会人の頃に読むとあまりにも青臭く「こんなサラリーマンになりたくない」と思うだろうが、社会人経験が増えるごとに感想が人によって大きく異なってくる本作。これからの社会人生活で時折読み返し、そのたびに自分の変化を発見してみてほしい。(kukurer)

『スキエンティア』戸田誠二

自由の女神ならぬ「科学の女神」像が高層タワーの上から人間の生活を見下ろす近未来の日本。しかし、ここで現代に生きる我々と同じように生きづらさを抱える登場人物たちを救うのは、高度な科学技術そのものではない。彼らはひたむきにそれぞれの仕事に打ち込み、悩み、苦しみ、葛藤しつつも大きな達成感を得る、その過程で少しだけテクノロジーの力を借りながら、やがて試練を乗り越えていく。いつの世も、大人の生きる道は険しい。みんな何かを失ったり、諦めたり、挫折しながら、それでも現実に立ち向かっていく。泥臭く実直に自分の仕事をこなすことの喜びや、その姿勢の尊さを描き出す本作は、そんな働く大人たちへのエールのような作品である。(鈴木史恵)

『アゲイン!!』久保ミツロウ

働くとは「はた」を「らく」にすることだとか言うように、日本人の労働観は身近な集団の中でどういった役割を果たすかという問題抜きには成り立たない。自己実現というより、求められた職責に適応する行為としての仕事。その萌芽は、就職以前の学園ものにも表れている。卒業間際で自分にも周りにも不平タラタラだったさえない主人公が、タイムスリップして高校生活をやり直す(=アゲインする)ことになったのをきっかけに、一種の開き直りから応援団を舞台に、以前なら絶対引き受けなかったような役どころを担い、あがく中で意外な能力を発揮し、周りも変わっていく。集団の中での役割を通じた個人の自己体現というものを、信じてみたくなる作品だ。(洛中洛外)

『独身OLのすべて』まずりん

新入社員が社会に入って直面する大変なことに仕事はもちろん、職場の人間関係があるだろう。この作品はデフォルメされたノブ子、マユ子、タマ子の独身OLたちが世間を知らない新入社員や充実した生活を送る既婚者に毒舌を吐き、あるいは共感を生み、あるいは悲哀を生むWEB連載のフルカラーコミックだ。アラサーからアラフォー世代に共感しやすいネタが各所に散りばめられているので同世代が共感することは間違いないのだが、新入社員が本作を読むことによって上司たちのネタ元や共通言語(シークレットコード)を事前学習して職場の人間関係を円滑に回す役にも立つ職場人間関係のバイブルとしてもオススメしたい。(オオタカズナリ)

マンガナイト読書会-マンガマッピング編

3月29日、「マンガナイト読書会-マンガマッピング編」が行われました。当日はお天気にも恵まれ、多くの方々にお越しいただきました。会場は初となるレインボーバードのイベントスペース。たくさんのマンガが並ぶ落ち着いた空間です。
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今回はいつもと少し趣向を変え、マンガをマトリックス(チャート)にして、2013年のマンガの傾向を独自に読み解くワークショップ形式の読書会を開催することになりました。ちょうどマンガ関連の賞が出揃った後のイベントとなり、年度末にふさわしいものとなりました。

代表山内の挨拶の後、まずは参加者が3つのグループに分かれ、おすすめのマンガの紹介を兼ねた自己紹介をしていきます。持ってきてもらったのは「2013年に読んで面白かったマンガ」です。特に内容制限は設けなかったため、幅広いジャンルの作品が集まりました。
自己紹介の次は回し読みタイムに入ります。にぎやかだった会場が一転して静まり返り、辺りは読む人の真剣な空気に包まれました。

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回し読み終了後、用意された3種類のマトリックスにマンガのタイトルを書いたふせんを1枚ずつ貼っていきます。マトリックスの中央には、基準となる人気作品を配置しました。そして軸には「かわいい」「かっこいい」や「人間」「人外」などの対になるワードが書いてあり、人気作品と比べ、持ち寄った作品はどの辺りに位置するのかを決めていきます。
貼り終わった所で他のテーブルに移動し、次のマトリックスにふせんを貼ります。すぐに作業を終えてマンガの回し読みに戻るチームあり、ギリギリまで楽しく検討を行っているチームありと、グループごとに個性が出るのが印象的でした。

3つのテーブルを回り終わった所で作業終了です。こうして3枚のマトリックスが完成しました。マンガのタイトルがびっしりと並んだ紙を見ていると、嬉しさと達成感がわいてきます。

君に届け模造紙進撃の巨人模造紙聖☆おにいさん模造紙

発表タイムでは、一人一人持参したマンガの紹介とマトリックス作成作業について思ったことを語ってもらいました。あるテーマに対して、マンガの立ち位置を一つ一つ決めていくという作業を皆さん楽しんでくれたようです。
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できたマトリックスはこちらの3種類です!

● 基準作品:君に届け(かっこいい←→かわいい/ストーリー重視←→キャラ立ち)

君に届けマトリックス

● 基準作品:進撃の巨人(気持ち良い←→気持ち悪い/笑える←→泣ける)

進撃の巨人マトリックス

● 基準作品:聖☆おにいさん(日常←→非日常/人間←→人外)

聖☆おにいさんマトリックス

今回の読書会オリジナルの2013年のマンガの傾向をまとめると、以下のようになりました。

  • ・人間が日常生活を送る作品が多い
  • ・笑える作品より泣ける作品がやや多い
  • ・気持ち良い作品と気持ち悪い作品はどちらも多い
  • ・個性的な作品はマトリックスの端に位置することが多い。例えば「テラフォーマーズ」や「坂本ですが?」など

この「マンガマッピング」はマンガナイトにとっても初の試みでしたが、全員で意見を出し合い考えた結果、このように成果を出すことができました。最後に記念撮影をして、第一部は終了となりました。

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第二部の懇親会は久々のマンガ飯です!
ケータリングのヒラトコセイジさんによる、マンガに登場したメニューの再現の数々に参加者一同が感動したのは言うまでもありません。

当日出たごはんはこちらです。
メニュー名からどの作品に登場したかわかった方はグルメマンガ通です!

【メインディッシュ】ローストビーフもどき
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【副菜】トリッパ、白菜、白インゲンの煮込み
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【スープ】きりたんぽ
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【主食】南風のナポリタン
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【サラダ】
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ローストビーフは簡単に作れるのに味が本格的という、驚きの一品でした。ナポリタンは「南風」のモデルとなった実在するお店「アンデス」のものを参考に再現。料理雑誌にも取り上げられたその味は、ほっとするおいしさに満ちていました。その他の料理も本当においしかったです。
素敵なごはんを作って下さったヒラトコさん、どうもありがとうございました。ごちそうさまでした。

次回も楽しい時間が過ごせるような読書会を開催したいと思います。また今年はマンガナイトが5周年を迎えますので、色々な機会にたくさんの人と交流できたらと考えています。今後ともよろしくお願いします! (ek)

マンガを持ってアキバに出よう 脱出ゲーム×マンガの可能性

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マンガを読む人なら誰でも、「マンガの世界に入り込んで遊べたら」と思うことがあるだろう。本やマンガ好きの夢のひとつだ。これを実現したのがSCRAP主催のリアル脱出ゲーム「書泉リアルゲームブックシリーズ vol.2 漫画迷宮からの脱出」。ゲームブックを片手にゲームを進めていくにつれて、マンガとリアルの世界の境目が曖昧になり、マンガ表現の奥深さや書店のおもしろさを実感できる。
会場は秋葉原駅近くの書泉ブックタワー(東京・千代田、6月1日(日)まで)。

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参加するにはまずゲームブック(税抜き1200円)を購入する。

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ブックはリフィル式で、ゲーム内容や進め方もマンガで描かれる。

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書店で1冊のマンガを手にした参加者が、マンガの中に閉じ込められたという設定。マンガに隠された秘密を探り当てて脱出するため、ゲームブックを片手に書店内などのヒントを探すゲームだ。

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ゲームブック片手に店内をうろうろ

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ゲームを進めるときは店員さんやほかのお客さんの迷惑にならないように

書店を舞台にした脱出ゲームは2013年の「リアルゲームブックシリーズ vol.1 本屋迷宮からの脱出」に続き2回目。今回マンガを題材にしたのは「舞台が秋葉原の書店だから」(SCRAP)とのこと。さらに何ができたらマンガ好きは楽しくて、作品に入り込めるかを考えたという。

筆者も体験したのだが、マンガと脱出ゲームは想像以上に相性がいいことを実感した。(結果として謎を解くところまでは至らなかったが)

脱出ゲームの肝は、プレーヤーを閉じこめた場所に、いかにうまくヒントをちりばめ、プレーヤーに発見させて謎を解かせることにあると考える。

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プレーヤーは店内でゲームブックを熟読することになる

これをマンガ及び書店という場所で考えると、ヒントを潜り込ませる要素がとても多いのだ。物語と絵で構成されるマンガには、文字、枠線、コマ割りと様々な表現方法が隠されており、ゲームではこれらがフル活用されていた。マンガ好きなら行って損はしないだろう。おもしろくも奥が深いマンガ表現の世界にどっぷりつかりながら、自分の普段のマンガの読み方を気づかされることになるのだ。ある参加者は「マンガの背景がリアルの書店っぽくて、より作品に没頭できた。自分とマンガの距離が近くなった気がする」と話す。

SCRAPは今後、マンガ「名探偵コナン」や「DEATH NOTE」、「進撃の巨人」をテーマにした脱出ゲームも計画している。こちらも期待が持てそうだ。

ゲームを進める時間をさらに楽しくするのは書店という場所そのものだ。普段書店でよく目にするものもゲームの展開の鍵になっている。マンガや本が好きなら、自分の好きな漫画家の新作告知のポスターやサイン色紙のところで足を止めてしまい、肝心のゲームを進められないかもしれない。

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ついつい店内のポスターなどに目がいってしまう

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見ているだけで楽しいマンガ売り場だが、謎解きのために泣く泣く離れることに

またゲームの展開上、書店内のいろいろな売場に足を運ぶことになる。すると普段はあまり行かないジャンルの売場で思わぬ出会いが待っている。「趣味人専用」をうたう書泉ブックタワーの店内は、ちょっとしたエンターテインメント空間。例えば5階には、鉄道関連の雑誌や書籍だけでなく、なんと三陸鉄道やJR九州のグッズが並んでいるのだ。

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書店で売っているのは本や雑誌だけではない

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マニアにはうれしい、フリーペーパーコーナーも

今回の脱出ゲームに時間制限はないため、ヒントの場所以外にも安心して立ち寄れる。もちろんルール上、書店の外に出て食事をしたり休憩したりしても問題ない。

今年の春は、マンガを持ってアキバに出てみてはどうだろうか。(bookish)

マンガナイトセレクト お花見マンガ5選:「花」から感じる日本の美意識

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こんにちは。マンガナイトです。今月より、毎月テーマを決めて、マンガナイトメンバーがおすすめマンガを紹介していきます。今月のテーマは“お花見マンガ5選~「花」から感じる日本の美意識~”春の訪れを日に日に感じるこの季節にマンガでお花見をしながら、日本の美意識を再確認してはいかがでしょうか。季節折々に咲かせる花は、古くから和歌や美術などのモチーフとなり、日本独特の「四季」の情感と彩を、作品に与えてきました。現代のマンガの中にも、花を象徴的に扱っている作品があります。今回はそんな作品を5点選びました。

『雨柳堂夢咄(うりゅうどうゆめばなし)』波津彬子

時は明治。骨董屋・雨柳堂(うりゅうどう)を舞台に、骨董品にまつわる因縁を描く幻想物語。雨柳堂の店主の孫、連が、持ち込まれる骨董品の声を聞き、人と人あらざるものの間をつないでいく。その媒介となるのが四季折々の花だ。店のシンボルが柳であるように、多くのエピソードに植物、特に花の姿が描かれる。「月の花影」では人の姿をとり、自らの最後の花を花入れにさしてもらいに。「一朝の夢」では葉っぱが不思議な茶会への招待状に。「夜咄」では、梅の木直々に、指定の盆鉢への入れ替えを依頼される―と、この作品で、花は骨董品の模様としてだけでなく、人と人ではない世界の架け橋としても登場。日本人が身近にある植物に親しみつつも、その生命力に特別な力を見いだしていることを感じさせる作品だ。(bookish)

『花食う乙女』絹田村子

食べられる花、エディブルフラワーという言葉が一般化してきている。しかし、日本には古くからふきのとうや菜の花を春の訪れとして楽しむ文化があり、東北地方を中心として盛んに行われている食用菊の栽培などから「花を食べる」ことへの心理的ハードルは決して高くなかったといえる。そんな文化を知ってか知らずか、大学の薬用植物園を舞台に繰り広げられるコメディを描いた作品が『花食う乙女』だ。大学のエリート研究員、宇佐見となぜか彼の部下になってしまった激貧の占い師、遠子。植物にまつわる効用や成分をもとに二人が植物園で起こる事件を解決していくという、推理作品的様相も持ち合わせる異色の作品と言えるだろう。(いけだこういち)

『おいしい銀座 バイヤー真理』酒井郁子

東京・銀座の老舗百貨店で、食品仕入れを担当する現場を扱った作品。2巻収録の「春告げ魚 サワラ」は、花見がテーマだ。桜(主にソメイヨシノ)の花見は1年の節目の時期に、誰もが楽しみにしているイベント。見ごろが1~2週間しかない桜の開花に合わせた食材の仕入れを見極めるため、百貨店周辺の桜の開花状況やお花見客の様子を見回る。桜は元日からの積算温度が600度で開花すると言われるが、予想が2日前後ずれることもある。「お花見弁当」等「お花見」の文字があるだけで売り上げが3割も変わるため、小さな公園もチェックして準備を進める。私たちが毎年、おいしい食べ物に囲まれて花見を楽しめている裏には、こうした仕入れ担当者の努力があるのだろうと思わせてくれる。(旨井旬一)

『花吐き乙女』松田奈緒子

片想いをすると花を吐く奇病「花吐き病」。患者が吐いた花に他人がさわると感染してしまうが、恋をしない限り症状が出ることはない―。世にも不思議な「花吐き病」の謎を解こうとする研究所の面々が織りなす群像漫画である。装丁はレトロモダンで抒情的な感じだが、ストーリーはそれを見事に裏切るごった煮感が魅力。登場人物が花を吐くシーンは苦しそうでいて、見ていると段々すがすがしさまで覚えてくるから不思議だ。そこに描かれる花はチューリップや水仙、百合など多種多様で、華やかさをもたらしている。作者のエッセンスがたっぷり詰まっていて、ぜひ注目してほしい一冊である。(Kuu)

『花よりも花の如く』成田美名子

伝統芸能である「能」を主軸に置き、能楽師として成長してゆく主人公の姿を描いたこの作品は、タイトルからして『花』と謳われているように、様々な「花」が象徴的に描かれており、各エピソードと絡まりながら技巧的かつ繊細に表現されている。作中では梅、桜、蓮、杜若、菊、牡丹、林檎など四季折々の花たちが物語を彩り、単に絵の中に華を添えるだけでなく、登場人物の心の機微に触れる重要な役割を果たしている。「花は自分が美しいことを知らない」という主人公の言葉が、静かに染み込んでくる作画である。また日本画の技法が取り入れられた表紙もこの作品の見所。「能」と「花」を見事に融合させ、日本的な美しさに溢れている作品である。(ヤマダナナコ)

~本屋B&B連動企画「マンガナイト×PingMag」~

昨年末に特集した「BEST of 2013 マンガナイトセレクトの海外にも紹介したい漫画10選」を、下北沢の「本屋B&B」にて、期間限定の特別企画で展示販売しておりますので、ぜひお立ち寄りください。今後もこちらで紹介したマンガを随時B&Bで展示販売する予定です。お楽しみに。

マンガ大賞受賞作品などから、社会のイマを読み解く

4月14日(月)21:00~22:00の日程で、ネットで受講できる無料授業を配信している「schoo」にて、代表山内康裕が往来堂書店三木雄太さんと「マンガ大賞受賞作品などから、社会のイマを読み解く」の先生をやります。

マンガナイト読書会―マンガマッピング編

全体12014年3月29日(土)に「マンガナイト読書会―マンガマッピング編」を開催します。
今回の読書会は、参加者が持参したマンガについて話し合い、オリジナルのマンガマトリックス(チャート)を作っていくワークショップ形式になります。

参加のお申し込みは下記のフォームからお願いします。

皆さんに持参していただくマンガは「2013年に読んで面白かったマンガ」です。昨年出会ったマンガの中で、ぜひみんなに伝えたい、共有したいと思った単行本をお持ちください。

「心をゆさぶられた」「何かツボにはまった」「ひたすらかわいい」など、おすすめポイントは何でもOKです。有名無名新旧は問いません。みなさまのイチオシのマンガをお待ちしております。

集まったマンガは参加者で検討してマッピングし、2013年マンガマトリックスを作っていきます。昨年愛されたマンガの傾向が一目でわかり、これから流行る一冊も見えてくるーそんな一枚をみんなで作り上げてみませんか?

マンガマトリックスの例

スクリーンショット 2014-03-10 1.01.26

そして、読書会後の懇親会では、久しぶりにマンガ飯が登場予定です。
※フードの一部にマンガに登場したメニューを再現

フード担当 ヒラトコセイジ

新しいマンガに出会いたい方から、ヘビーリーダーの方まで、マンガを介して気軽にコミュニケーションが生まれ、新しいマンガに出会えるイベントです。みなさまのご参加をお待ちしております。

※過去のイベントの様子はこちらから

概要

【マンガナイト読書会―マンガマッピング編】

内容
2013年のおすすめマンガについてブレストし、世界に一つだけのマンガマトリックスを作る
日時
2014年3月29日(土)17:30(開場17:00)~22:00 ※ 20:00~懇親会
持ち物
「2013年に読んで面白かったマンガ本」1冊〜数冊。2013年発行のものでなくても構いません。
参加料
読書会 1,000円(ソフトドリンク付き)
懇親会 2,500円(フード&1ドリンク)
定員
15名程度(事前予約制)
会場
レインボーバード(スタジオスペース)
文京区小石川2-1-13後楽園ビューハイツ703
後楽園駅・春日駅6番出口徒歩2分