マンガナイトセレクト お花見マンガ5選:「花」から感じる日本の美意識

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こんにちは。マンガナイトです。今月より、毎月テーマを決めて、マンガナイトメンバーがおすすめマンガを紹介していきます。今月のテーマは“お花見マンガ5選~「花」から感じる日本の美意識~”春の訪れを日に日に感じるこの季節にマンガでお花見をしながら、日本の美意識を再確認してはいかがでしょうか。季節折々に咲かせる花は、古くから和歌や美術などのモチーフとなり、日本独特の「四季」の情感と彩を、作品に与えてきました。現代のマンガの中にも、花を象徴的に扱っている作品があります。今回はそんな作品を5点選びました。

『雨柳堂夢咄(うりゅうどうゆめばなし)』波津彬子

時は明治。骨董屋・雨柳堂(うりゅうどう)を舞台に、骨董品にまつわる因縁を描く幻想物語。雨柳堂の店主の孫、連が、持ち込まれる骨董品の声を聞き、人と人あらざるものの間をつないでいく。その媒介となるのが四季折々の花だ。店のシンボルが柳であるように、多くのエピソードに植物、特に花の姿が描かれる。「月の花影」では人の姿をとり、自らの最後の花を花入れにさしてもらいに。「一朝の夢」では葉っぱが不思議な茶会への招待状に。「夜咄」では、梅の木直々に、指定の盆鉢への入れ替えを依頼される―と、この作品で、花は骨董品の模様としてだけでなく、人と人ではない世界の架け橋としても登場。日本人が身近にある植物に親しみつつも、その生命力に特別な力を見いだしていることを感じさせる作品だ。(bookish)

『花食う乙女』絹田村子

食べられる花、エディブルフラワーという言葉が一般化してきている。しかし、日本には古くからふきのとうや菜の花を春の訪れとして楽しむ文化があり、東北地方を中心として盛んに行われている食用菊の栽培などから「花を食べる」ことへの心理的ハードルは決して高くなかったといえる。そんな文化を知ってか知らずか、大学の薬用植物園を舞台に繰り広げられるコメディを描いた作品が『花食う乙女』だ。大学のエリート研究員、宇佐見となぜか彼の部下になってしまった激貧の占い師、遠子。植物にまつわる効用や成分をもとに二人が植物園で起こる事件を解決していくという、推理作品的様相も持ち合わせる異色の作品と言えるだろう。(いけだこういち)

『おいしい銀座 バイヤー真理』酒井郁子

東京・銀座の老舗百貨店で、食品仕入れを担当する現場を扱った作品。2巻収録の「春告げ魚 サワラ」は、花見がテーマだ。桜(主にソメイヨシノ)の花見は1年の節目の時期に、誰もが楽しみにしているイベント。見ごろが1~2週間しかない桜の開花に合わせた食材の仕入れを見極めるため、百貨店周辺の桜の開花状況やお花見客の様子を見回る。桜は元日からの積算温度が600度で開花すると言われるが、予想が2日前後ずれることもある。「お花見弁当」等「お花見」の文字があるだけで売り上げが3割も変わるため、小さな公園もチェックして準備を進める。私たちが毎年、おいしい食べ物に囲まれて花見を楽しめている裏には、こうした仕入れ担当者の努力があるのだろうと思わせてくれる。(旨井旬一)

『花吐き乙女』松田奈緒子

片想いをすると花を吐く奇病「花吐き病」。患者が吐いた花に他人がさわると感染してしまうが、恋をしない限り症状が出ることはない―。世にも不思議な「花吐き病」の謎を解こうとする研究所の面々が織りなす群像漫画である。装丁はレトロモダンで抒情的な感じだが、ストーリーはそれを見事に裏切るごった煮感が魅力。登場人物が花を吐くシーンは苦しそうでいて、見ていると段々すがすがしさまで覚えてくるから不思議だ。そこに描かれる花はチューリップや水仙、百合など多種多様で、華やかさをもたらしている。作者のエッセンスがたっぷり詰まっていて、ぜひ注目してほしい一冊である。(Kuu)

『花よりも花の如く』成田美名子

伝統芸能である「能」を主軸に置き、能楽師として成長してゆく主人公の姿を描いたこの作品は、タイトルからして『花』と謳われているように、様々な「花」が象徴的に描かれており、各エピソードと絡まりながら技巧的かつ繊細に表現されている。作中では梅、桜、蓮、杜若、菊、牡丹、林檎など四季折々の花たちが物語を彩り、単に絵の中に華を添えるだけでなく、登場人物の心の機微に触れる重要な役割を果たしている。「花は自分が美しいことを知らない」という主人公の言葉が、静かに染み込んでくる作画である。また日本画の技法が取り入れられた表紙もこの作品の見所。「能」と「花」を見事に融合させ、日本的な美しさに溢れている作品である。(ヤマダナナコ)

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昨年末に特集した「BEST of 2013 マンガナイトセレクトの海外にも紹介したい漫画10選」を、下北沢の「本屋B&B」にて、期間限定の特別企画で展示販売しておりますので、ぜひお立ち寄りください。今後もこちらで紹介したマンガを随時B&Bで展示販売する予定です。お楽しみに。