マンガを持ってアキバに出よう 脱出ゲーム×マンガの可能性

こちらのコンテンツは、PingMagからの許諾を得ての転載となります。
元ページの記事はこちら。元ページの英文翻訳記事はこちら

マンガを読む人なら誰でも、「マンガの世界に入り込んで遊べたら」と思うことがあるだろう。本やマンガ好きの夢のひとつだ。これを実現したのがSCRAP主催のリアル脱出ゲーム「書泉リアルゲームブックシリーズ vol.2 漫画迷宮からの脱出」。ゲームブックを片手にゲームを進めていくにつれて、マンガとリアルの世界の境目が曖昧になり、マンガ表現の奥深さや書店のおもしろさを実感できる。
会場は秋葉原駅近くの書泉ブックタワー(東京・千代田、6月1日(日)まで)。

real-escape-games01

参加するにはまずゲームブック(税抜き1200円)を購入する。

real-escape-games02

ブックはリフィル式で、ゲーム内容や進め方もマンガで描かれる。

real-escape-games03

real-escape-games04
書店で1冊のマンガを手にした参加者が、マンガの中に閉じ込められたという設定。マンガに隠された秘密を探り当てて脱出するため、ゲームブックを片手に書店内などのヒントを探すゲームだ。

real-escape-games05

ゲームブック片手に店内をうろうろ

real-escape-games06

ゲームを進めるときは店員さんやほかのお客さんの迷惑にならないように

書店を舞台にした脱出ゲームは2013年の「リアルゲームブックシリーズ vol.1 本屋迷宮からの脱出」に続き2回目。今回マンガを題材にしたのは「舞台が秋葉原の書店だから」(SCRAP)とのこと。さらに何ができたらマンガ好きは楽しくて、作品に入り込めるかを考えたという。

筆者も体験したのだが、マンガと脱出ゲームは想像以上に相性がいいことを実感した。(結果として謎を解くところまでは至らなかったが)

脱出ゲームの肝は、プレーヤーを閉じこめた場所に、いかにうまくヒントをちりばめ、プレーヤーに発見させて謎を解かせることにあると考える。

real-escape-games07

プレーヤーは店内でゲームブックを熟読することになる

これをマンガ及び書店という場所で考えると、ヒントを潜り込ませる要素がとても多いのだ。物語と絵で構成されるマンガには、文字、枠線、コマ割りと様々な表現方法が隠されており、ゲームではこれらがフル活用されていた。マンガ好きなら行って損はしないだろう。おもしろくも奥が深いマンガ表現の世界にどっぷりつかりながら、自分の普段のマンガの読み方を気づかされることになるのだ。ある参加者は「マンガの背景がリアルの書店っぽくて、より作品に没頭できた。自分とマンガの距離が近くなった気がする」と話す。

SCRAPは今後、マンガ「名探偵コナン」や「DEATH NOTE」、「進撃の巨人」をテーマにした脱出ゲームも計画している。こちらも期待が持てそうだ。

ゲームを進める時間をさらに楽しくするのは書店という場所そのものだ。普段書店でよく目にするものもゲームの展開の鍵になっている。マンガや本が好きなら、自分の好きな漫画家の新作告知のポスターやサイン色紙のところで足を止めてしまい、肝心のゲームを進められないかもしれない。

real-escape-games08

ついつい店内のポスターなどに目がいってしまう

real-escape-games09

見ているだけで楽しいマンガ売り場だが、謎解きのために泣く泣く離れることに

またゲームの展開上、書店内のいろいろな売場に足を運ぶことになる。すると普段はあまり行かないジャンルの売場で思わぬ出会いが待っている。「趣味人専用」をうたう書泉ブックタワーの店内は、ちょっとしたエンターテインメント空間。例えば5階には、鉄道関連の雑誌や書籍だけでなく、なんと三陸鉄道やJR九州のグッズが並んでいるのだ。

real-escape-games10

書店で売っているのは本や雑誌だけではない

real-escape-games11

マニアにはうれしい、フリーペーパーコーナーも

今回の脱出ゲームに時間制限はないため、ヒントの場所以外にも安心して立ち寄れる。もちろんルール上、書店の外に出て食事をしたり休憩したりしても問題ない。

今年の春は、マンガを持ってアキバに出てみてはどうだろうか。(bookish)

新たなマンガの生まれる場所

こちらのコンテンツは、PingMagからの許諾を得ての転載となります。
元ページの記事はこちら。元ページの英文翻訳記事はこちら

「マンガを描く人はみな、漫画家である」。マンガ好きは当たり前のようにこう考える。だが、マンガという表現はもはやマンガ家だけのものではない。アニメーターやイラストレーターなど幅広い表現者が自分の表現したいことに適した手法としてマンガを選ぶ時代なのだ。その動きを垣間見せるのが、「3331Arts Chiyoda」で開催中の「タマグラアニメとマンガ博」(3月9日まで)だ。元学校という空間に登場したマンガ作品は、書店で流通する作品とは違った魅力を見せ、マンガとは何かを考えさせてくれる。

tamagura01

飾りつけは学園祭風

「タマグラ」とは多摩美術大学グラフィックデザイン学科のこと。卒業生に個性的な短編アニメーションの作家が多いことで有名だ。今回はこのタマグラを卒業しアニメーションを作りながら、マンガも描く新旧幅広い世代6人が集まった。(そのため隣の部屋では、のアニメ作品も放映。同じ人が作る、マンガとアニメという似て非なる表現を見比べてみるのもおもしろい)

tamagura02

同じクリエイターのアニメーションも上映

元教室の会場に一歩はいると、壁全体に大判で印刷された6つのマンガ作品。これらはすべて今回のための書き下ろしだ。教室の奥にはそれぞれのキャラクターの立体像が並ぶ。元学校という環境とあいまって、レベルの高い学園祭にきた気分になる。

tamagura03

元教室の会場でマンガを読む

tamagura04

会場ではタマグラ卒業生の作品を実際に読むことができる

展示されている作品の、テーマや絵柄は6者6様だ。

tamagura05

壁にはられた作品を読むという楽しさも

マンガ愛好家にとっつきやすいのは、クリハラタカシ氏の「夏の怪獣」などだろう。すらりとした線の絵でちょっとシュールな物語が展開されている。杉崎貴史氏の「亀」もデフォルメされたキャラクターが動き回るコメディタッチの作品で、手塚治虫氏や杉浦茂氏を彷彿とさせる。本人も子供の頃、手塚治虫氏や水木しげる氏の作品を読んで育ったという。

tamagura06

クリハラタカシ氏の「夏の怪獣」

アーティストとして活躍する近藤聡乃氏の「さようなら」は男女関係がテーマ。繊細な線の絵柄からはひりひりと女性の葛藤が伝わってくる。

tamagura07

近藤聡乃氏「さようなら」

しかし、いつもの紙の雑誌や単行本のマンガを読むつもりで作品に向き合うと、少し戸惑うかもしれないものもある。

たとえば久野遥子氏の「神の兄弟」。コマの時間の流れがすごく独特で、何度もコマとコマを行き来して、時間の流れを確認してしまった。

あるいは短編アニメーション「つみきのいえ」の手がけた加藤久仁生氏の「ともまち」。ひとつひとつの絵は絵本のようなのに、コマはきちんと時間を切り取っていて、時と場所の変化を感じさせた。しかもシャープペンシルと墨で描いたという。

みる順番は自由なので、かしこまらず自分の好みにあうものから楽しむのがいいだろう。

彼らにとってマンガとは何か。これに答えてくれたのが「歯クション大銀河」を発表したぬQ氏だ。

tamagura08

ぬQ氏「歯クション大銀河」

アニメを作り、イラストもマンガもかくぬQ氏曰く「マンガは言葉のかけあいがおもしろい話を短くまとめるのに向いている」とのこと。確かにぬQさんが今回発表した作品も、アニメーションでは言葉が流れていってしまうし、イラストにしてしまうと言葉の掛け合いのおもしろさが見えてこない。

「ともまち」を発表した加藤さんも「動きで楽しませるアニメーションに対し、マンガは『止』を見せるよさがある」と話す。

tamagura09

オープニングには多くの人が集まった

「マンガ表現はもはやマンガ家だけのものではない」-――不器用な人間は、自分の考えや世界を表現する方法はひとつだと限定してしまいがち。だが今回の6人は、アニメーション、マンガ、そしてイラストレーションというそれぞれの表現を自在に選択し始めているようにみえる。日本にマンガという表現が根付いた証でもあるだろう。

tamagura10

会場外には落書きスペース

tamagura11

会場外にも展示が

マンガ家以外がマンガを描き始め、マンガを描くことが、「文字を書く」「絵を描く」ことと同じぐらい一般的な表現方法になったとき、マンガはなにが表現できるのか。そこからどんな作品が生まれてくるのか楽しみだ。(bookish)

tamagura12

会場は大学が卒業生のために借りたギャラリー
「タマグラアニメとマンガ博」概要
http://akibatamabi21.com/exhibition/
日程
2月1日(土)~3月9日(日)、火曜日は休み
開場時間
12:00~19:00(金・土は20:00まで)
会場
3331Arts Chiyoda 201・202(千代田区外神田6-11-14)

日本人よ、もっとマンガを知れ:ガイマン賞に迫る

こちらのコンテンツは、PingMagからの許諾を得ての転載となります。
元ページの記事はこちら。元ページの英文翻訳記事はこちら

2012年度の文化庁メディア芸術祭・マンガ部門は、大賞に海外の作品が初めて選ばれたことで話題となった。受賞作は、フランス・ベルギー地域のコミック“バンド・デシネ”のひとつ『闇の国々』(原作:ブノワ・ペータース/作画:フランソワ・スクイテン)。1ページを1週間かけて描いたという緻密な画は、マンガというよりもまるで美術作品のよう。いわゆる“マンガ”に慣れ親しんでいる私たち日本人がもつマンガの概念を覆すものだった。

そもそもマンガとは? 世界のマンガってどんなものだろう? 私たちが普段何気なく読んでいるマンガは、実はとっても一部のものなのかもしれない…… このように自分の“マンガの世界”を広げてくれるのが、日本以外で出版されているコミックスなのだ。今年で3回目の開催となる「ガイマン賞」は、これらの作品との幸せな出会いのきっかけになるだろう。

「ガイマン」は「外国のマンガ」という日本語を省略した造語で、「アメリカン・コミックス(アメコミ)」、フランス語圏の「バンド・デシネ」、韓国の「マンファ」など日本以外の国・地域で作られたマンガのこと。

ガイマン賞は“読者が選ぶ海外マンガの賞レース”だ。過去1年間に日本で翻訳出版されたガイマンが対象で、読んだ人は公式サイトや投票箱を通じて、感想とともに好きな作品に投票できる。人気ランキングを作ることで1年のガイマンを振り返るとともに、新たな読者の開拓・普及を目指していく。第3回目となった2013年度は、2012年10月1日〜2013年9月30日に出版されたガイマン85作品を対象に、9月14日〜11月17日の約2カ月、投票を受け付けた。

投票期間中は主催の米沢嘉博記念図書館(東京都)、京都国際マンガミュージアム(京都府)、北九州市漫画ミュージアム(福岡県)の3カ所の施設で、全作品が誰でも読めるよう展示されていた。

gaiman-01

主催施設のひとつ、明治大学が運営する米沢嘉博記念図書館

gaiman-02

米沢嘉博記念図書館の2階の閲覧室に会場に並んだ2013年度のガイマン賞ノミネート作品。いくつご存じだろうか?

gaiman-03

米沢嘉博記念図書館の2階の閲覧室では「ガイマン賞」に投票もできる

gaiman-04

ノミネートされたバンド・デシネ作品。美術書のような装丁が日本のマンガとは違った雰囲気を漂わせる

gaiman-05

アメコミの一群。映画でおなじみのスーパーヒーローたちは、にわかに心躍らせてくれる存在だ

gaiman-06

韓国の教育マンガ『かがくるBOOK—科学漫画サバイバルシリーズ』もノミネートしている

「日本であまり知られていないガイマンの魅力を広く知ってもらおうとスタートしました」と話すのは創設者のミソトミツエさん。初開催の2011年はWebサイトだけで投票とレビューを募り、「この海外マンガがすごい!2011」としてまとめた。2012年からはマンガ施設と共同開催する「ガイマン賞」にスケールアップし、実際に人々が作品を読める現在の形になった。

gaiman-07

こちらは2012年度のベスト3作品

ガイマンを気軽にまとめて読める場所の意味は大きい。「日本でも最近ガイマンが徐々に翻訳出版されてきているものの、日本のマンガに比べ高価格の上、販売店舗も限られており、ビニールで包装されていて試し読みもできない場合が多い。読者にとっては手が出しにくい環境になっています。ガイマンに興味を持った方が参考にできるランキングやレビューといったガイドと、賞を通じて実際に作品が読める機会を提供できればと思いました」(ミソトさん)

gaiman-08

米沢嘉博記念図書館の1階は展示室。この取材を行った11月上旬には、相田裕さんの作品『GUNSLINGER GIRL』の企画展が行われていた(2014年1月25日まで開催)

gaiman-09

マンガ・アニメ・ゲームなどサブカルチャーの資料を推計14万冊以上所蔵する同館はマンガ愛好家からの注目度が高いため、共同開催になることで賞の存在が認知されやすいなど相乗効果は大きい

ガイマン賞に関連し、投票箱を設置した各会場ではガイマンに関わる作家や編集者、翻訳者などを招いたイベントも定期的に実施。2013年11月2日には米沢嘉博記念図書館でトークイベント「ケン・ニイムラと担当編集者が語る『I KILL GIANTS』とマンガとガイマン」が行われた。

登壇者は漫画家のケン・ニイムラさんと小学館『IKKI』編集者・豊田夢太郎さん。司会はバンド・デシネ翻訳者の原正人さんが務めた。

ご自身もガイマンが好きだという豊田さん。トークショーではニイムラさんが作画したコミック『I KILL GIANTS』(原作:ジョー・ケリー、訳:柳亨英)と出会い、2012年末にIKKIコミックスとして翻訳出版するまでの苦労と喜びを語った。

『I KILL GIANTS』は、ニイムラさんがアメリカの原作者から依頼を受けて制作したワールドワイドな作品だ。2008〜2009年に全米でオルタナティブコミックとして刊行され話題になり、2012年初頭に外務省主催の第5回国際漫画賞で最優秀賞受賞を獲得。6カ国語に翻訳されている。内容は、自分は選ばれし<巨人殺し>だと思い込む妄想少女が孤独などの苦境を乗り越えるというもの。日本風にいいかえれば「中二病女子の成長物語」だ。

gaiman-10

『I KILL GIANTS』。ガイマン賞2013のノミネート作品でもある

ただこの作品は、物語がおもしろいだけではない。その魅力的なビジュアルにも大きな反響が寄せられているのだ。

翻訳版を担当編集した豊田さんは「ニイムラさんから初めて見せてもらった作品の表紙にひとめぼれした」と話す。家に置いておきたくなるセンスあふれる風格に「やられた!」と、その場で日本での出版をオファー。前からニイムラさんのようなキャッチーでキュート、そしてカッコイイ絵柄を描ける人を求めていたこと、ガイマンはオールカラー作品が多い中、同作は日本で主流のモノクロ作品だったのも大きなポイントだったという。

通常、翻訳作業は翻訳者がその意味を解釈しながら(時に、そこにとても苦心しながら)進められる。だが、今回はニイムラさんが日本にいるということで、「この意味は?」と一つ一つ確認しながら進めたという。

制作過程では異例づくしの工程がいくつもあった。 物語には日本にはないものが登場する。例えば『I KILL GIANTS』冒頭の授業風景。アメリカの学校では、その職業の魅力を語るという授業があり、外部から人を招いて話をしてもらうのだそうだ。日本の学校ではこうした授業はないので、一読しただけでは一体何が行われているのかわからない。まずは日本の読者が読みやすいようこうしたポイントをわかりやすくする作業が必要だった。日本語にすることで文字数が多くなるため、フキダシも大きくしている。

作り手と翻訳者が直にやりとりしたこともあり、翻訳の精度が高く、一方で日本の読者も読みやすい日本版『I KILL GIANTS』が完成。「アメリカの作品が見事な日本仕様になって……もう、小躍りして喜びましたね」と、ニイムラさんは顔をほころばせた。

国境を越え色々な作家のマンガが並んだ雑誌づくりを見据え、「海外の作家が日本で作品を生み出せる環境づくりが進めばいいと思う」と豊田さん。トークイベントを締めくくったこの言葉が実現すれば、一体どんな風になるのだろうか?漫画家も編集者も読者も、これから読者になる人も、この未来予想図にきっとわくわくするはずだ。

これまで知らなかった制作方法や表現スタイルをガイマンから見つけるたび、「自分の知っていたマンガは、狭かった!」という気持ちのいい驚きがあった。ガイマン賞が盛り上がることでマンガの可能性の面白さと驚きに、幾度となく出会えるに違いない。(TAKAHIRO KUROKI)

gaiman-11

投票箱や専用サイトには、多くの読者の感想が寄せられた

マンガの未来と過去をつなぐ場所「立川まんがぱーく」

こちらのコンテンツは、PingMagからの許諾を得ての転載となります。
元ページの記事はこちら。元ページの英文翻訳記事はこちら

マンガというのはフローコンテンツである。新刊書店に最新の雑誌や単行本がどんどん並べられ、話題になる作品が入れ替わる一方、旧作や読み切り作品を手にできる機会は少ない。この中で、特に未来の読者になりうる子どもたちが過去の名作と巡り会う場所を提供しようとしているのが、「立川まんがぱーく」だ。

01

「立川まんがぱーく」は、立川市子ども未来センター2Fに位置する

02

のらくろが入口でお出迎え

幅広い年代の作品を、「畳に寝転んで」「押し入れの中」など、日本の住宅での「マンガ読み」を疑似体験しながらマンガを楽しめる空間になっている。

03

土日は子どもたちで賑わっている

立川まんがぱーくは2013年3月、旧市役所跡地の改装した立川市子ども未来センターの一角にオープンした。立川まんがぱーくの福士真人館長は「近年のマンガのジャンルは多様で、子ども達そして大人にとっても娯楽という枠を超えて学びを得ることができ、交流もできる。子育て施設が近くにあるこの場所にまんがぱーくがあることは、子ども達の未来に良い影響を与えることができる」と話す。

04

まんがコーナー

05

絵本コーナーも設置

立川まんがぱーくは3万冊の作品を所蔵。手塚治虫氏「BLACK JACK」から尾田栄一郎氏「ONE PIECE」まで幅広い出版社や年代の作品が棚に並ぶ。400円(子ども200円)の入館料を払った利用者は、自由にマンガを選び、部屋の中やバルコニーで読むことができる。

6

バルコニー席

7

室内空間

カフェ・コーナーでの軽食販売もあり、「ちょっとお菓子を食べながらマンガを読む」なんていうこともできてしまうのだ。

8

カフェ・コーナーでは大人向けにアルコール販売もしている

9
館内の作りもユニークだ。まんがぱーくは壁やドアなどの内装がほぼすべて木造、床は畳敷きだ。そして「ドラえもん」などに登場する「押し入れの中」が再現されている。福士館長は「畳敷きは昭和の民家をイメージしている。家族や友人と、家でリラックスしてマンガを読んでいるかのような環境を目指した」と話す。

10

押し入れ風の半個室

11

畳を基調にしている

この中で入館者は、畳に寝ころんだり押し入れの中に入ったりしてマンガを読むことができる。日本人が普段どのようにマンガを楽しんでいるのか(または読みたいと思っているのか)が再現されているのだ。

12

押し入れ風の半個室でマンガを楽しむ方々

13

増設された大人サイズの半個室

立川まんがぱーくが演出するのはマンガと人の出会いだけではない。人と人のつながりも生まれ始めている。7~8月には子どもたちを対象とした「まんがの描き方」教室も開かれ、参加した子どもたちはみごと作品を冊子の形にまとめた。ともすれば受け身になりがちなマンガ体験。あえて描き方教室を開催することで、子どもたちはマンガを描く側に回り、いつもと違った視点を持つことができる。

14

「まんがの描き方教室」は全5回で開催された

15

プロ漫画家からマンガの描き方を学ぶ子ども達

もちろん立川まんがぱーくを楽しめるのは子ども世代だけではない。 長年マンガを読んできた大人世代にとっては、子どもの頃楽しんだマンガと再会する場。同じ出版社の作品や少年向けの作品などで今の子どもが読んでいるマンガと比べてみるのもいいだろう。子供を持つ親世代なら、子育てマンガや料理マンガを手にしてみるのもいい。幅広い世代が、いろいろな楽しみ方のできるところなのだ。

16

学習マンガの所蔵料は随一「受験・教科」棚

17

「科学・技術・産業」棚

18

往年のファンも楽しめる「のらくろコーナー」

19

マンガ通好みのマンガが並ぶ「マンガナイトコーナー」

立川まんがぱーくには今年の夏休み、多くの親子連れが訪れた。今後、立川まんがぱーくがどんなマンガと人の出会いを実現させるのか。期待は大きい。(bookish)

20

「まんがぱーく大市」というフリーマーケットも定期的に開催

最新技術で楽しむ「藤子・F・不二雄」の世界

こちらのコンテンツは、PingMagからの許諾を得ての転載となります。
元ページの記事はこちら。元ページの英文翻訳記事はこちら

マンガというのは、紙など平面に描かれた二次元の世界である。読者である私たちはそれを目で見て楽しむ。だがその作品に愛着を持てば持つほど目で見るだけでない楽しみを求めるようになり、マンガはアニメ、フィギュア、舞台へと展開してきた。今後私たちは「マンガ」の世界をどう楽しむことになるのか。その一端を示しているのが、東京タワーで開催中(〜10/6)の生誕80周年記念「藤子・F・不二雄展」だ。目で見るだけではなく、マンガの世界が文字通り二次元を飛び出しているのだ。過去の作品と最新技術が組み合わさることで、藤子・F氏の世界の新しい楽しみ方の一端を示している。

fujiko-fujio-exhibition01

20世紀を象徴する東京タワーとドラえもんの組み合わせ

fujiko-fujio-exhibition02

まずは屋上の「55/80ひろば」から。どのドラえもんと写真を撮るか迷う

最新技術でマンガを表現する

fujiko-fujio-exhibition03

「SFシアター」では藤子・F先生も出迎えてくれる

fujiko-fujio-exhibition04

「プロジェクションマッピング」で過去の記憶と出会う

今回の展示の特徴は、過去の作品と先端技術の組み合わせだ。「55/80ひろば」のある屋上から階段を下りた4Fの展示フロアの最初のメーンが藤子・F氏の作品の主要キャラクターが出迎えてくれる「SF(すこしふしぎ)シアター」だ。一面は白い本棚のような壁と机。机の引き出しに吸い込まれた原稿を、キャラクターが追いかけ恐竜時代にタイムトラベル…… ストーリーはシンプルだが、次々とシーンが移り変わるのを目にすると、紙のマンガを読んだりアニメーションを見たりするのとはまた違う世界に出会った気持ちになった。特に原稿が飛んでいくときの紙のこすれる音、タイムマシンに乗っている間の風の感触。最新技術を使い五感でマンガを楽しんだ気分だった。

fujiko-fujio-exhibition05

貴重な原画が散らばってしまった

fujiko-fujio-exhibition06

なんと引き出しに原画が吸い込まれる

fujiko-fujio-exhibition07

吸い込まれた原画をタイムマシンで追いかける

このシアターに使っている技術は「プロジェクションマッピング」といわれるもの。(PingMagではしめじへのプロジェクションマッピングの記事も以前紹介)今回のシアターでは、「4Dプロジェクションマッピング」を使っており、でこぼこして見える場所に本棚が投影され、そこからさらにキャラクターが飛び出してきたのだ。

マンガが子どもから青年のものになった時代の象徴

fujiko-fujio-exhibition08

fujiko-fujio-exhibition09

fujiko-fujio-exhibition10

藤子・F先生にもなれる

4Fのフロアを進むと原画の展示と作品のワンシーンに入り込める「なりきりキャラひろば」などがある。どちらも藤子・F氏の作品世界に浸ることができる場所だ。ここで興味深いのは「ドラえもん」「パーマン」「キテレツ大百科」など子ども向け生活ギャグマンガの原画やその作品のワンシーンに入り込める「なりきりキャラひろば」と、青年向けの「SF短編マンガ」が並列に展示されているところだ。

fujiko-fujio-exhibition11

部屋の間の移動はどこでもドアで

fujiko-fujio-exhibition12

大人向けには「SF短編の世界」

藤子・F氏が活躍した時代は、ちょうど子どもから徐々に青年層にまでマンガの読者が広がり始めていた時期だった。藤子・F氏はもちろん子ども向け生活ギャグマンガの名手として名高い。これらは大人になってから読むと、子どもの時とは違う感想を持つだろう。だが彼はより幅広い読者層のアプローチしようとしていたのではないか——そう思わせるのがSF短編集だ。会場の「SF短編の世界」のスペースには主な短編作品の表紙が壁一面に飾られている。「ミノタウロスの皿」「みどりの守り神」「劇画オバQ」「パラレル同窓会」……どれもSFセンスにあふれ、なおかつ読者に「あなたならどうするか」との問いをつきつけるものだ。もちろん子供も楽しめるものであり、会場では熱心にSF短編の原画を読む子供もいた。

そしてこれらは、展覧会のタイトルにもあるように「藤子・F・不二雄展」——つまりほぼ藤子・F氏から生み出された世界なのだ。彼は5万枚の原画を残し、川崎市のミュージアムや今回の展覧会のもとになっているという。

fujiko-fujio-exhibition13

開催を祝う色紙は幅広い著名人から

展覧会の最後の部屋には、藤子・F氏が各インタビューなどで残した言葉と、今回の展覧会に寄せられた著名人からの色紙が飾られている。「藤子不二雄A」「曽田正人」「藤田和日郎」「松本大洋」らマンガ家だけでなく「福山雅治」「村上隆」「鴻上尚史」ら音楽やアートなど他分野からの色紙も多い。マンガ家の展覧会でこれだけ幅広い著名人からの色紙が集まることは少ない。藤子・F氏の作品が幅広い層に愛された証左だろう。

東京タワーという場所

fujiko-fujio-exhibition14

今回の展示は藤子・F氏の生誕80周年を記念して行われた

fujiko-fujio-exhibition15

インタビューの言葉は「仕事論」としてもぐっとくる

「藤子・F・不二雄展」は藤子・F氏の生誕80周年を記念したもの。藤子・F氏には川崎市に「藤子・F・不二雄ミュージアム」がある。なぜ専用のミュージアムがあるのに別の場所で展示会をするのか、それは彼の作品が東京タワーに象徴される昭和期、そして東京タワーそのものと切っても切れない縁があるからだ。その一端は、会場の入り口となる屋上から、4Fフロアに降りる途中の階段にさりげなく示されている。「東京タワーとF作品」がそれだ。各作品から東京タワーの描かれたコマを切り出し、壁に貼り付けてある。コマをみながら、どの作品だったかを思い起こすのもいいだろう。

ドラえもんの秘密道具「タケコプター」「フワフワオビ」、パーマン……「すこしふしぎ」を追求した藤子・F氏の作品で登場人物らは高い頻度で空を飛ぶ。その描写に東京タワーは不可欠だったのだ。いかに当時の読者にとって東京タワーのような高い建物を「越える」ことが夢だったのかがわかる。

fujiko-fujio-exhibition16

「東京タワーとF作品」空を飛びたいという夢は変わらない

fujiko-fujio-exhibition17

パーマンが飛ぶ背景にも東京タワー

藤子・F氏の描いた「21世紀」はどうなるのか——そんなことに思いをはせながら東京タワーや20世紀の作品を楽しんではどうだろうか。(bookish)

fujiko-fujio-exhibition18

最後はキャラクターらと記念撮影