ムジナ

ただ「生き延びる」、それだけを目的とすることに何の恥ずかしいことがあるだろう。珍しいほどパッとしない主人公の少年忍者ムジナは、必殺技の「忍法跳ね頭」のみを頼りに、敵から逃げ、仲間から隠れることで厳しい忍びの世界を生き抜いていく。しかし、その先に見つけた、より大切なもののために思想が揺らぎ始める…下品なシーンと変なギミックが多く、好きだというのがちょっと憚られる作品だが、人間の弱さと汚さ、滑稽さを真っ向から捉え、その上でキラっと光るわずかな挟持の美しさが描かれており、平凡な人間に勇気を与えてくれる。――余談の思い出ですが私が大学生の頃、たまたま降りた駅で偶然、相原先生のサイン会を発見しました。急いで買ってきた色紙に「ムジナを描いてください」と言うと、ちょっと照れたように「昔のだから描けるかな…」と、それでもキチンと描いてくださり、そのことでこの作品がいっそう特別なものになりました。

文=本多正徳
1980年、広島生まれ。専門出版社勤務。マンガナイトではすっかりイジラれ担当になってしまった最近(!?)。男子校の寮でマンガの面白さに目覚めました。好きなジャンルはガロ系とヘタウマ系。藤子不二雄やつげ義春、水木しげるなどの古典的ナンバーも得意。心のマンガは『ダンドリくん(泉昌之)』『サルでも描けるまんが教室(相原コージ、竹熊健太郎)』でしょうか… ほかの趣味は読書、囲碁・将棋と悲しいほどのインドア派。ウェブサイト/グッズ制作を担当。