トロイメライ

一台の伝説のピアノ「ヴァルファールト」をめぐる、国も時間も飛び越えた壮大な物語。巻末の村上知彦さんによる解説に「ほらふき爺さん、かく語りき」とありますが、島田虎之介さんの作品のスケールの大きさ、それを破綻なく語りきるディティールのリアリティには脱帽です。「この風呂敷、だいぶ広がっちゃってますけど?」とドキドキしていても、最後には涼しい顔で、かつ力強く、予想もつかなかった美しい形にキュッと畳みきってくれるのが憎たらしい。抜群の構成と画面割りは、上質な映画のよう!輪郭線のくっきりした独特のタッチが苦手かも…という人も、だんだんと白と黒のコントラストや、イラストのようなキャラクター造型が癖になってくること間違いなしです。初めて読んだときにはなんとなく読み飛ばしていた部分が、二度目には意味をもって捉えられたり…何度も読み返しては、酔いしれてほしい作品!

文=山口文子
1985年生まれ。映画制作を目指して迷走中。歌も詠む。マンガナイト見習いで、執筆などをお手伝い。 女子高時代、魚喃キリコの『短編集』をきっかけに、安野モヨコ、南Q太などフィールヤング系を読みあさる。その後、友達と「週10冊ずつオススメ漫画を交換する」修行を数ヶ月行い、興味のベクトルが全方向へ。 思い入れの強い漫画に『BANANA FISH』、『動物のお医者さん』、『ナンバー吾』。岡崎京子の影響を受け続けて今に至る。