Loved Circus

男性同士の恋愛を描く「ボーイズラブ(BL)」。特殊な題材ゆえに外からは注目を浴びにくいジャンルではありますが、この分野には時々、「BL」の一言では形容しづらい個性的な作品が現れることも。こちらも、そんなBLレーベル発の一風変わったマンガです。
主人公は、いろいろあって人生に絶望していた平凡なサラリーマン・ケイ。流されやすい性格の彼がゲイ専門の風俗店「サーカス」で働くことになってしまうところから、物語はスタート。3人の個性的な同僚と「サーカス」での日々を過ごす中で、ケイ自身や周囲に起きていく変化が描かれます。
面白いのは、「男性キャラクターを個性豊かに、魅力的に、そして色気を交えて描く」というBLらしい技法が駆使されていながら、展開されるストーリーには、実はBL的・恋愛的要素が薄いところ。「ゲイ専門の風俗店」という舞台、登場人物たちの関係性にその「香り」は漂っているものの、全体を見れば、これはあくまで「サーカス」という場に身を置き人生の一部を共有した男たちの人間ドラマ。そのギャップが、不思議な読後感につながります。
「マンガは好き、でもBLはちょっと…」という人にも、是非おすすめしたい一作です。

文=鈴木史恵
1986年2月生まれ、千葉県出身。おもちゃメーカー勤務を経て編集・執筆業へ。マンガ好きとしての原点は物心つく以前から触れてきた手塚治虫と藤子・F・不二雄。24年組、80年代ニューウェーブ、ガロ系、それらの系譜にある青年マンガを中心に、面白そうなものは何でも読みます。マンガ以外の趣味は好きなバンドのライブや映画鑑賞など。