大東京ビンボー生活マニュアル

せっかくの休日に家でモタモタしてしまい、夕方になってから「1日を無駄にしてしまった!」と嘆くことがある。そんな時に思い出したマンガ。舞台こそ昭和中期であれ、このマンガは現代人が見ても恥じない「無駄な1日」のカタログになっている。天井の木目を見続けて/アパート内の物音に耳を澄ませて/ジャズ喫茶で10時間粘って、1日を過ごす内容が、延々5巻165話にわたって繰り広げられる。タイトルに「マニュアル」とあるように、当初は説明書きが多くハウツーモノを目指していたフシがあるが、しだいに日常エッセイの趣に舵取りされ、近隣の仲間たちとのハートウォーミングなやりとりを中心とした作風へと変化するには10話を待たなかった。主人公のコースケからして、初期は感情をあらわに、それなりにマンガらしい動きをしていたのが、連載も安定してくるにつれだんだんと表情が薄くなり、セリフすら殆ど発さなくなる。そして時にそのストーリーの展開は禅味すら帯びてくる。マニュアルが経典と化す瞬間である。こういった形で、ある意味ぜいたくな時間の使い方を示されると、帰らない時間を思い少し「きゅんとし」てしまう。もしも現代版があるならば、寝床から起きたり戻ったりしながら、スマートホンのゲームをしたり、録画して既に見たタモリ倶楽部をまた見たりして無為に1日を終えてしまうコースケの姿を1編に加えていただきたい。

文=本多正徳
1980年、広島生まれ。専門出版社勤務。マンガナイトではすっかりイジラれ担当になってしまった最近(!?)。男子校の寮でマンガの面白さに目覚めました。好きなジャンルはガロ系とヘタウマ系。藤子不二雄やつげ義春、水木しげるなどの古典的ナンバーも得意。心のマンガは『ダンドリくん(泉昌之)』『サルでも描けるまんが教室(相原コージ、竹熊健太郎)』でしょうか… ほかの趣味は読書、囲碁・将棋と悲しいほどのインドア派。ウェブサイト/グッズ制作を担当。