人の見たくない面をえぐって表に出してみせことで定評のあるマンガ家、渡辺ペコさんの短編集。お風呂をテーマにしたもので、表紙や帯の文句マから「お風呂でくつろぎ日々のいやなことを忘れて気分転換する内容?」と思って読んだら、いい意味で裏切られた。「お風呂」で心の鎧を脱ぐことで、気分転換するどころか、緩んだ心の隙間から、人間の抱える業、どろどろした思いや思わぬ本音がオープンになり、登場人物らは(そして読者も)それまで目を背けていた事実と向き合わざるをえなくなる。渡辺さん独特の、繊細な線で描かれると、あたかも登場人物らに起こったことが自分にも起こりそうで、お風呂という場と向き合うのに戸惑うかもしれない。それでもお風呂に惹かれるのは、自分ともしくは一緒に入る人との距離が縮まるから。現実人は社会の様々な場面で、その場面に合う役割を求められ、自然と心の鎧は分厚くならざるをえない。少し怖いけれども、心の鎧を脱ぎ捨ててみたい人こそ、このマンガを読んでお風呂に入るべきでしょう。
投稿日: 2016年5月17日
文=bookish
1981年生まれ。「ドラえもん」「ブラック・ジャック」から「週刊少年ジャンプ」へと順当なまんが道を邁進。途中で「りぼん」「なかよし」「マーガレット」も加わりました。主食はいまでも少年マンガですが、おもしろければどんなジャンルも読むので常におもしろい作品を募集。歴史や壮大な物語をベースにしたマンガが好み。マンガ評論を勉強中。マンガナイト内では「STUDIOVOICE」のコラムなど書き物担当になっています。マンガ以外の趣味は、読書に舞台鑑賞。最近はサイクリングも。