サユリ 完全版

父の念願のマイホーム。父、母、姉、弟、則雄の5人家族に、離れて暮らしていた祖父母も加わり、一家7人での温かな生活が始まる。でも、そこにはサユリがいた。1人また1人。幸せな家族のピースは、あっけなく、一瞬で、欠ける。
ホラーと名のつくもの全てを避け続け、大人になってしまいました。手に入れてから読むまでに3週間ほどびくびく。意を決して真昼間に手を出す。怖い。こんな怪しげな家買うなよ、いいから早く引っ越せよ…とぶつぶつ。何か起きると分かって読んでいるのに、絵の迫力で直に神経が揺さぶられる。ページをめくるだけで心臓に悪い。一家が一瞬でばらばらにされるあまりの理不尽さに読むのをやめたくなる。しかし、この作品は絶対に途中で投げ出してはいけません。後半からの怒涛の展開はもう目が離せない。読み手の予想は痛快に裏切られ、読み終えてからはしばし放心。全力疾走した後のような疲労感とちょっとした清々しさが身体に残る。
眠れない夜、ふと暗闇が怖くなるときにも「どう怖がらないか」ではなく「どう戦うか」と思考を切り替えさせてくれる一冊。

文=青柳拓真
1992年生。10代の多くをシンガポールで過ごす。何度も読み返してきた漫画は「ジョジョの奇妙な冒険」、「鈴木先生」、「それでも町は廻っている」、「三月のライオン」、「魔人探偵脳噛ネウロ」など。漫画の面白さって何なんだろう、「漫画」ってどう定義できるんだろう…とか色んな作品を読んで考えるのが楽しい。オールラウンドなマンガ読みを目指して最近は恐る恐る少女漫画に挑戦中。