『ガラスの仮面』しかり、『王家の紋章』しかり、数十年規模で長く続いている少女マンガは、熱心なファンがいる一方で、きっかけがないとなかなか入りづらいかもしれません。本作もそんな著名タイトルの一つですが、こちらは青年マンガをよく読む人や男性にも、ぜひ手に取ってみてほしい一作。物語のメイン要素は、東西冷戦を背景としたスパイアクション。主人公のひとりは硬派で堅物でワーカホリックなドイツの情報将校。彼の行動にもうひとりの主人公ーー美しいものを愛する大泥棒「エロイカ」が絡むことで、軽妙なコメディとしても成立しています。個性的なキャラクター、美麗で緻密な描き込み、細部まで計算されたストーリー、洒脱な台詞回し…それらが見事に釣り合った、非常に贅沢なマンガです。時代の変遷にしたがって作品の雰囲気も少しずつ変わっていくため、イントロダクション部分に面喰らう方もいるかもしれませんが(笑)、まずは4〜5巻(文庫版では3〜4巻)収録の「アラスカ最前線」編まで、一気に読むことをおすすめします!
投稿日: 2015年6月21日
文=鈴木史恵
1986年2月生まれ、千葉県出身。おもちゃメーカー勤務を経て編集・執筆業へ。マンガ好きとしての原点は物心つく以前から触れてきた手塚治虫と藤子・F・不二雄。24年組、80年代ニューウェーブ、ガロ系、それらの系譜にある青年マンガを中心に、面白そうなものは何でも読みます。マンガ以外の趣味は好きなバンドのライブや映画鑑賞など。