クニミツの政

 「選挙で誰に投票すれば」という悩みにずばり応える作品。主人公の熱意と心からの訴えが、「自分のやってほしいことを代わりにやってくれる人を選ぼう」と読者に思わせてくれる。
主人公は縁あって、政治家秘書になった自称「中学中退」の武藤国光。強力なライバルにも負けず、熱意と発想で人を巻き込み、秘書として仕えた政治家を見事当選させる。
政治家は人に応援してもらわないとその職にも就けないし、物事も進められない。究極の人たらしがそろい、あの手この手で「自分に一票を」と訴えてくる。そんな日本の架空の都市の市長選を描くこの作品が強烈に訴える「政治家はひとりひとりが選び、市民によって作られる」という主張はそんな誘惑を跳ね除けさせてくれる。作中にはおそらく現実の政治家をモデルにしたのであろう、様々な政治家が出てくる。それでも最後に勝つのは、地域の人のことを全力で考え抜き、行動すると訴えた政治家。それは作中の市民が、「この政治家の描く未来を共有できる」と思って投票に動いたからだ。
作者の主張が前面に押し出され、今となっては首を傾げる選挙戦略や主張はある。やや品のないギャグも盛り込まれているし、そもそも未成年が政治家秘書をやっていいのか、などなど。しかしこの作品の熱さは「マンガだから理想」とシニカルに構えることを許さない。「マンガを読んでバスケットボールやサッカーを始めるのと同じように、選挙マンガを読んで、誰となら未来を共有できるか考えて投票しよう」と考えさせる。
難しいのは「自分のやってほしいこと」は本人が決めなければならないということ。しかし小さなことでもいいから「こうなってほしい」ということを見つけて、一票を託す相手を決めたい。

文=bookish
1981年生まれ。「ドラえもん」「ブラック・ジャック」から「週刊少年ジャンプ」へと順当なまんが道を邁進。途中で「りぼん」「なかよし」「マーガレット」も加わりました。主食はいまでも少年マンガですが、おもしろければどんなジャンルも読むので常におもしろい作品を募集。歴史や壮大な物語をベースにしたマンガが好み。マンガ評論を勉強中。マンガナイト内では「STUDIOVOICE」のコラムなど書き物担当になっています。マンガ以外の趣味は、読書に舞台鑑賞。最近はサイクリングも。