スパデート

最初にことわっておくと、本作には入浴シーンが出てこない。総合スパリゾートを舞台に主人公の過去を遡り、人間関係を問い直す作品。主人公、一ノ瀬はデザイン事務所を経営するイケメン。仕事に厳しく、冷酷な態度をとっているうちに女性の顔がゆるキャラに見えるようになってしまう。仕事中心で女性に興味がない日々の中、勧められて訪れたスパの受付に、高校時代の同級生、水鳥がいた。なんとちゃんと人間の女性の表情で。なぜ彼女だけ女性として認識されるのか、話を追うごとにあらわれてくる他の同級生たちの証言から、青春時代の状況が立ち上がる。誰にでもある建前や見栄、暗黒面、それらをさらけ出せる関係とは何か。一ノ瀬に幸せは訪れるのだろうか。

文=いけだこういち
1975年、東京生まれ。マンガナイト執筆班 兼 みちのく営業所長。好きなジャンルは少女マンガ。谷川史子、志村貴子作品をマイ国宝に指定している。日々、大蔵省(妻)の厳しい監査(在庫調整)を受けながらマンガを買い続ける研究者系ライター。どうぞごひいきに。

ハチミツとクローバー

才能があったり、可愛かったりする登場人物のなかで、主人公の竹本くんだけは、本当に普通の男の子。なかなか就職先が見つからず、悩んで自分探しの旅に自転車で出かけるところが印象的で。私が『ハチミツとクローバー』を読んだのがちょうど大学生で、就職活動に悩んでいる時期だったので、一緒に就職活動をしている気分でした。「同じような人がこの世界にいる!」ということが、自分にとって何より救いでしたね。わたしも一人旅行きたかったな。

文=kuu
マンガナイトではイベントのお手伝いと、執筆ちらほら。90年前後のなかよし、りぼんなどの影響をやや強く受けてますが、いろいろ読みます。好きな漫画家は、羽海野チカ、佐原ミズ。展覧会と舞台、可愛くて面白いものに心惹かれます。お茶とおいしいものにも。

きみのことすきなんだ

少女漫画に出てくる男の子は、スポーツができたり勉強ができたり、かっこいいことが前提だった。小学校6年生のときに読んだこの作品は、主人公が魚屋のすごく普通の男の子で、好きになった女の子もすごく普通の子。少女漫画の中にも、普通の男の子の居場所があると気づかせてくれました。すごく丁寧に描かれた詩的な作品。自分の息子にも読んでもらえるよう、さりげなく手に届くところに置いておきたいです。

文=いけだこういち
1975年、東京生まれ。マンガナイト執筆班 兼 みちのく営業所長。好きなジャンルは少女マンガ。谷川史子、志村貴子作品をマイ国宝に指定している。日々、大蔵省(妻)の厳しい監査(在庫調整)を受けながらマンガを買い続ける研究者系ライター。どうぞごひいきに。

がんばれ!パンダ内閣

日本の総理大臣にパンダの赤ちゃんが選ばれてしまった、という異色な政治漫画が2004~2005年に「週刊プレイボーイ」で連載されていた。つの丸の『がんばれ! パンダ内閣』だ。
人気のない動物園に生まれたパンダ・シャオシャオ。特に芸を披露しなくとも、ゴロゴロ動くだけで大人たちは大はしゃぎ。パンダの赤ちゃんというだけで、世間から国民的スターとして扱われる。そこに目をつけたのが与党の民明党。急落してた人気を回復しようと、党首、つまりは首相にシャオシャオをスカウトする。
総理大臣任命式。「あーあー」とよだれを垂らしながら国会のマイクをボンボンいじる。会議でうとうと眠りこける。議事堂のなかを三輪車でキーコーキーコー移動する。か わ い い。大臣14人を園内の動物や飼育員ばっかりに任命しようとしたり、お堅い政治をパンダが自由気ままにおこなっていく姿にほのぼのする。
一方でシャオシャオを首相に仕立てあげた党の幹部たちは、「政治のことは難しいから私達に任せなさい」とつくり笑顔で迫る。もともとシャオシャオの前から、スポーツ選手や芸人など人気者を”客寄せパンダ”として首相にし、実権は自分たちで握るつもりだった。満州国の元首を幼い中国皇帝にすえおき、中国人の顔を立てながら、政権を担っていた大日本帝国の姿と重なる。
政界でパンダがのびのびゴロゴロ過ごす裏には、政治のイメージ戦略に対し皮肉がたっぷりつまっている。パンダにデレデレする議員や国民を客観的に見つめながら、自分は政治家に表面だけで振り回されていないかかえりみよう。
なお、作者のつの丸は、『みどりのマキバオー』『モンモンモン』と動物を主役に名作を連発してきた漫画家。デフォルメしたパンダの赤ちゃんはさすがにかわいい。そしてやっぱりモブキャラはみんな鼻の穴がでっかいし、フルチンです。

文=黒木貴啓
1988年生、鹿児島出身、東京在住のライター。マンガナイトでは執筆を担当してます。ロックンロール、もしくは仮面が題材の漫画を収集&研究中。大橋裕之「音楽と漫画」、榎屋克優「日々ロック」、そして何よりハロルド作石「BECK」……日本人が成したことないロックの魔法を漫画のキャラが見せてくれるところに、希望を感じてしまいます。

十年後、街のどこかで偶然に

究極の1対1の人間関係といえるのが恋愛。その恋愛を「あえて踏み出すもの」にしてしまった20代が、自分の殻を破って新たな人間関係に築いていく姿を描いた短編集。恋愛というテーマを通じて、「いくつになっても殻は破れる」という普遍的なメッセージを訴える。
登場人物らはみな、10代での失敗を心に抱え、社会人になってからの恋愛に踏み出すことをためらっている状態。20代になり、ある程度「自分」というものが固まってしまうからこそ、「この人は自分の相手をしてくれるのか」と考え込んでしまっている。そんな彼らは「それでも」と踏ん張り、自分なりに思いを伝えあい、それぞれの人間関係を作っていこうとする。年を経て、「思いの伝え方」を学習したのも大きいように思える。短編を通じたメッセージは「大人になっても殻は破れるし、破った後には意外といい世界が広がっている」というもの。これは案外「恋愛」に限らないのかもしれない。

文=bookish
1981年生まれ。「ドラえもん」「ブラック・ジャック」から「週刊少年ジャンプ」へと順当なまんが道を邁進。途中で「りぼん」「なかよし」「マーガレット」も加わりました。主食はいまでも少年マンガですが、おもしろければどんなジャンルも読むので常におもしろい作品を募集。歴史や壮大な物語をベースにしたマンガが好み。マンガ評論を勉強中。マンガナイト内では「STUDIOVOICE」のコラムなど書き物担当になっています。マンガ以外の趣味は、読書に舞台鑑賞。最近はサイクリングも。

塩田先生と雨井ちゃん

pixivで投稿されていたマンガが待望の単行本となって登場しました! 昔から少女漫画のテーマ「教師×女子高生」は古典のように愛されてきました。しかし、だんだんと過激になったり、性格の設定をひねってみたりと、変わり種が増えてきた昨今。そんな中「塩田先生と雨井ちゃん」は、少し昔ながらの絵柄で、王道を突き進んでくれます! 話の内容は塩田先生と女子高生の雨井ちゃんが、ゆる~くいちゃいちゃする話です(過激ではないのもまた高ポイント)。基本的にコミカルなお話が多いですが、真剣なシーンでは思わずキュンとすること間違いなし! 「最近の少女漫画についていけない~」という方にも、ぜひ手に取ってほしい作品です。

文=松尾奈々絵
1992年生まれ。少女漫画から青年漫画まで好きです。趣味は野球観戦。

魔法自家発電

夢のあるタイトルと表紙にドキドキ。帯の「萩尾望都、絶賛」に期待する。そして本編を読む。できれば何度も読み返す。これがこの本の正しい取り扱い方だと思われます。現代っぽさと懐かしさが同居した絵のタッチとストーリーがじわじわしみてくること請け合い。日本が舞台の作品もありますが、洋画の雰囲気が好きな人に特におすすめします。紅茶とクッキーを用意して、くつろぎながら読みたい1冊。少しずつ風味の違う短編の5種盛りを、心ゆくまで味わってみて下さい。

文=kuu
マンガナイトではイベントのお手伝いと、執筆ちらほら。90年前後のなかよし、りぼんなどの影響をやや強く受けてますが、いろいろ読みます。好きな漫画家は、羽海野チカ、佐原ミズ。展覧会と舞台、可愛くて面白いものに心惹かれます。お茶とおいしいものにも。

ドキドキズキズキ

度々韓国漫画についての感想を上げていますが、私は韓国ドラマやKPOPにはあまり興味がありません。…が、映画は大好きで色々見ています。犯罪モノなどは暴力描写などがドギツいのですが、恋愛モノはとことん甘く切なく、登場人物達に共感する作品も多い。文化の近さ故という事もあるのでしょうが、欧米映画とも違った感動があります。漫画も例外ではありません。今回紹介する作品も韓国作品。絵もテーマも正直とてつもなく地味です。一昔前のテイストで野暮ったい…のですが、読み進めていくうちに、作品内での伏線、間のとり方、表情、セリフなどが一級品すぎる…!そのギャップに驚愕…!韓国作品は絵はイマイチではありながら、それを演出でカバーしている作品がとても多いように感じます。漫画において、きれいで素敵な絵はもちろん大事ですが、それを凌駕する演出を繰り出す韓国漫画は、決して侮れない物となっています。

fujita
文=ふじた
イベントではブース担当。食べ物に対する執着心は人一倍。 初めて読んだ漫画は「火の鳥 望郷編」で、意味もわからず絵だけをひたすら見てました。 その後「うわさの姫子」にハマり、漫画人生スタート。小学●年生、なかよし、ぶ~け、ハロウィン、週間マーガレットなどを購読。1997~2001年頃のヤングサンデーの連載陣に好きな作品が多いです。

天使なんかじゃない

「雨の中、不良のアイツが猫を拾っているところを目撃してきゅんとする」ところからお話がはじまり、まさかこんなに感動するとは思いもよりませんでした。主人公の翠(みどり)は、明るくて友達が多く、少しお調子者の女子高生です。そんな、いつも笑顔の翠ですが、決してなんでもできる完璧な女の子ではなく、好きな人のことや、友達、将来のことなど…たくさんの問題にぶつかります。時には好きな人をめぐって、いやがらせをうけることも。けれども、悩みながらもへこたれずに、一生懸命壁を乗り越えていきます。憧れの高校生活ってこういうもの!と断言できるほどまぶしい作品です。王道といえば王道、何度も読み返したくなる名作です。

文=松尾奈々絵
1992年生まれ。少女漫画から青年漫画まで好きです。趣味は野球観戦。

たそがれたかこ

バツイチ、40代、老いた母と二人暮らし。一人娘は摂食障害に陥り、学校に通えなくなった。そんなたかこさんの悩み多き日々が、軟派な美中年居酒屋店主との出会い、そして若きバンドマンへの突然の恋によって、音を立てて動き出す! 女性の生き方をテーマにしたマンガは近年枚挙にいとまがありませんが、主人公の立つ苦境の生々しさにおいて群を抜いている本作。生き方が上手くない自覚がある、毎日の生活が時折修行のように感じられる…そんな人には、特に響くのではないでしょうか。たかこさんが初めてライブハウスに足を運ぶエピソード(実在の某ライブハウスが取材に全面協力!)に、微笑ましく思いながらも目頭が熱くなりました。

文=鈴木史恵
1986年2月生まれ、千葉県出身。おもちゃメーカー勤務を経て編集・執筆業へ。マンガ好きとしての原点は物心つく以前から触れてきた手塚治虫と藤子・F・不二雄。24年組、80年代ニューウェーブ、ガロ系、それらの系譜にある青年マンガを中心に、面白そうなものは何でも読みます。マンガ以外の趣味は好きなバンドのライブや映画鑑賞など。

花と落雷

「嫌われるのが恐くて、自分の気持ちを伝えられない」「まわりの目を気にして行動できない」なんて、若いうちだけではなく、永遠の課題のような気がします。そんなときに、ちょっとしたことでも支えてくれる人がいるだけで、世界は大きく変わるものかもしれません。例えば、主人公・海美帆は、好きな人に告白したくても、行動に移せない女子高生。そんな彼女のもとに現れたのが「有言実行委員会」を名乗る少し変わった女の子・八千代。彼女との出会いで、海美帆は怖がりながらも、行動していける女の子に変わっていくのです。一生懸命でまっすぐな登場人物たちに心打たれます。読んだ後には心が浄化される、そんな漫画です。

文=松尾奈々絵
1992年生まれ。少女漫画から青年漫画まで好きです。趣味は野球観戦。

きっと可愛い女の子だから

このタイトルが、元ネタとなっているであろう某ミュージシャンの、独特のクセのある歌声で脳内再生される人も多いでしょう。本作はまさに、あの歌声のようなマンガ。地味で、ちょっと根暗で、自意識ばかり肥大化していて、周囲の「普通」の人のように振る舞えない主人公たち。彼らが「普通」の人に不器用に恋をして、傷ついたり、一歩進んだりする様子を丹念に描いたオムニバスです。高校生のストーリーではありますが、心の深い部分はそのままに実年齢を重ねてしまった大人にこそ、彼らの考えることが理解できるはず。いわゆる「コミュ障」を自覚する社会人たちに読んでほしい、そして密かに「ああ、わかる…」と思ってほしい…!

文=鈴木史恵
1986年2月生まれ、千葉県出身。おもちゃメーカー勤務を経て編集・執筆業へ。マンガ好きとしての原点は物心つく以前から触れてきた手塚治虫と藤子・F・不二雄。24年組、80年代ニューウェーブ、ガロ系、それらの系譜にある青年マンガを中心に、面白そうなものは何でも読みます。マンガ以外の趣味は好きなバンドのライブや映画鑑賞など。

14歳の恋

田中彼方と吉川和樹は、大人っぽい雰囲気で周囲からの尊敬と信頼を集める中学生。でも、ふたりは「大人っぽく見える」だけの普通の14歳の少年少女で、お互いのことが好きで、みんなに隠れてつきあっている。彼らのじれったい恋愛を、素朴で暖かみのある絵柄でじっくりと描いている作品。中学生の恋愛を題材にしたマンガがは少なくないだろうけど、本作は、それを「かわいらしいもの」「微笑ましいもの」として愛でる、という目線で描かれているところが特徴的。ふたりの関係にそっと介入するキャラクター達を含め、その様子をずっと見守っていたくなります。荒んだ心に潤いが欲しい人に!

文=鈴木史恵
1986年2月生まれ、千葉県出身。おもちゃメーカー勤務を経て編集・執筆業へ。マンガ好きとしての原点は物心つく以前から触れてきた手塚治虫と藤子・F・不二雄。24年組、80年代ニューウェーブ、ガロ系、それらの系譜にある青年マンガを中心に、面白そうなものは何でも読みます。マンガ以外の趣味は好きなバンドのライブや映画鑑賞など。

ほぼとり。

著者の「とり」への愛情が溢れ出ている4コマ作品です。「とり」である必然性のあるエピソードはほぼ無し。にもかからず登場するのは、ほぼ鳥。鳥の特性とかのあるあるネタは潔いほど無く、ただただ真っすぐに鳥が好きという気持ちだけ伝わってきます。犬より猫よりも鳥が好き!という方は必見。仲間を発見した気持ちになれます。

文=山内康裕
1979年生。法政大学イノベーションマネジメント研究科修了(MBA in accounting)。 2009年、マンガを介したコミュニケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成し代表を務める。 イベント・ワークショップ・デザイン・執筆・選書(「このマンガがすごい!」等)を手がける。 また、2010年にはマンガ関連の企画会社「レインボーバード合同会社」を設立し、“マンガ”を軸に施設・展示・販促・商品等のコンテンツプロデュース・キュレーション・プランニング業務等を提供している。 主な実績は「立川まんがぱーく」「東京ワンピースタワー」「池袋シネマチ祭2014」「日本財団これも学習マンガだ!」「アニメorange展」等。 「さいとう・たかを劇画文化財団」理事、「国際文化都市整備機構」監事も務める。共著に『『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方(集英社)』、『人生と勉強に効く学べるマンガ100冊(文藝春秋)』等。

Kissの事情

初めてこの作品に出会ったのは、小学生高学年の頃。今は無き少女漫画雑誌『Amie』で連載していて、友達から借りて読んでいました(『Amie』に「ちょっと大人のなかよし」というキャッチフレーズが付いていたとは知りませんでしたが、確かに「ちょっと背伸びして」わくわくドキドキ読んでいた…)。高校生のまっすぐな恋愛が「Kissの事情」を通して描かれたオムニバス短編集で、小学生の私にとって、まだ恋という概念は漠然とした憧れでしかなかったけれど「なんて素敵なんだろう」と感動したことをハッキリ覚えています。特に「チョコレートホリック」のとあるシーンと「少年人魚」がお気に入りでした。海野つなみさんのかわいい絵と文字、そして(笑)が多用されるのも新鮮で、ほんわか優しい気持ちになれて大好きでした。その後「復刊ドットコム」でリクエストして、単行本が手に入ったときの感動ときたら…!一気に読み返して、あの頃と全く変わらない透明な印象と、あの頃以上に光ってみえる青春にほろ酔い気分。もはや思い入れの独白となりつつありますが(笑)また絶版になってしまったようで残念…多くの人に読んでもらいたいのになぁ。小学生にもね!

文=山口文子
1985年生まれ。映画制作を目指して迷走中。歌も詠む。マンガナイト見習いで、執筆などをお手伝い。 女子高時代、魚喃キリコの『短編集』をきっかけに、安野モヨコ、南Q太などフィールヤング系を読みあさる。その後、友達と「週10冊ずつオススメ漫画を交換する」修行を数ヶ月行い、興味のベクトルが全方向へ。 思い入れの強い漫画に『BANANA FISH』、『動物のお医者さん』、『ナンバー吾』。岡崎京子の影響を受け続けて今に至る。

かわれて候。

またしてもLINEマンガからのご紹介。有名画家を父に持つ主人公の美大生が、ひょんな事から絵本作家の女性と同居する事になり…というのがおおまかなあらすじです。まあ、あらすじだけだと目新しさも特にないのですが、なぜかものすごく魅力的な作品です。無料で読めるとは思えないほど絵がとにかく丁寧で、キャラクターも魅力的。主人公はモラトリアムを抱えた悩める普通の青年、という感じなのですが、脇を固める男性キャラクターが主人公の父親含め、全員セクシー。近所の小学生男子ですらある種の将来性を感じますw。5/20更新分ではデザイナーを目指す主人公に、画家の父が「それは逃げだ」と諭すシーンがあるのですが、美大卒で画家一本でやっていけるのはほんの一握りなんだな、と改めて感じました。おそらく作者さんも美大卒なんでしょうが、じゃあ美大卒の漫画家さんは、画家から見るとどのような立ち位置になるんだろう?東村アキコさんの「かくかくしかじか」にも相通ずるものがありますね。

fujita
文=ふじた
イベントではブース担当。食べ物に対する執着心は人一倍。 初めて読んだ漫画は「火の鳥 望郷編」で、意味もわからず絵だけをひたすら見てました。 その後「うわさの姫子」にハマり、漫画人生スタート。小学●年生、なかよし、ぶ~け、ハロウィン、週間マーガレットなどを購読。1997~2001年頃のヤングサンデーの連載陣に好きな作品が多いです。

山本耳かき店

耳かきを生業とする割烹着姿の不思議な女性と、彼女の耳かきによってもたらされるめくるめく官能の世界を描いた作品。ノスタルジックで、素朴で、そしてフェチでエロい…そんな本作は、現在はTVドラマや映画にもなった『深夜食堂』を長期連載中の作者のデビュー作。世にも奇妙なマンガではありますが、耳かきの快感を知る人なら、この世界観にクラクラするはず…!何の気なしに「ビッグコミックオリジナル増刊」に掲載されたこの作品を読んだことは、マンガの世界の奥深さ、懐の広さを18歳の私に認識させることに、間違いなく一役買っていたと思います。

文=鈴木史恵
1986年2月生まれ、千葉県出身。おもちゃメーカー勤務を経て編集・執筆業へ。マンガ好きとしての原点は物心つく以前から触れてきた手塚治虫と藤子・F・不二雄。24年組、80年代ニューウェーブ、ガロ系、それらの系譜にある青年マンガを中心に、面白そうなものは何でも読みます。マンガ以外の趣味は好きなバンドのライブや映画鑑賞など。

あこがれ冒険者(アドベンチャー)

強くかわいい主人公ミィが王道のダブルヒーローと共に日本を飛び出し、恋や謎ときしつつタイトルに偽りなく冒険するという全部乗せ漫画。先日推しました「姫100%(赤石路代)」もですが、少女漫画のヒロインにはつい“身体能力”と“なんだかんだ高スペックを自認する快活さ”を求めてしまいがちなわたしです。全三巻でお話としてもキレイにまとまっており、「なな色マジック」への布石が見受けられたりもしますので、同作の復刊前にチェックしておくのがおすすめです!※ 復刊についてはこちら

文=牛尾敬子
マンガナイト内ではデザイン諸々と男性メンバー教育を担当。「週刊少年ジャンプ」「週刊少年サンデー」を読んでいた子ども時代から、なぜか「月刊アフタヌーン」に飛躍したマンガ歴を持つ。“聞こえやすい”声質を買われ、イベントでは「牛SHOUT」も披露(参照リンク)。今のお気に入りの作品は「帝一の國」「乙嫁語り」。マンガ以外の趣味は、文鳥とちゃーはんとアイススケート。

天然コケッコー

ふと自分の本棚を見てみると、数多くあるマンガの蔵書の中で女性作家の作品は圧倒的に少ないのですが、その中の一つがこちらの作品。本当に大好きな作品です。数年前に映画化したのでご存知の方も多いと思いますので、内容は割愛。私がこの作品を好きな理由は、他に類を見ない抜きん出た演出方法。コマ割りを2×4で左右に読ませ、次のページは見開き、また2×4に戻る。ある時は、猫が散歩したり昼寝している周りで、人間の絵は一切出ず吹き出しのみだったり。ベテラン漫画家であるくらもちさんの、マンガへの実験と挑戦を見る事ができます。初めて見たくらもちさんの作品は「アンコールが3回」だったのですが、そのオシャレな絵のラインや、破天荒でとことんわがままな主人公など、これまでにない少女漫画で衝撃を受けたのを覚えています。これからももっと斬新な演出方法を繰り出してほしいです!

fujita
文=ふじた
イベントではブース担当。食べ物に対する執着心は人一倍。 初めて読んだ漫画は「火の鳥 望郷編」で、意味もわからず絵だけをひたすら見てました。 その後「うわさの姫子」にハマり、漫画人生スタート。小学●年生、なかよし、ぶ~け、ハロウィン、週間マーガレットなどを購読。1997~2001年頃のヤングサンデーの連載陣に好きな作品が多いです。

大東京ビンボー生活マニュアル

せっかくの休日に家でモタモタしてしまい、夕方になってから「1日を無駄にしてしまった!」と嘆くことがある。そんな時に思い出したマンガ。舞台こそ昭和中期であれ、このマンガは現代人が見ても恥じない「無駄な1日」のカタログになっている。天井の木目を見続けて/アパート内の物音に耳を澄ませて/ジャズ喫茶で10時間粘って、1日を過ごす内容が、延々5巻165話にわたって繰り広げられる。タイトルに「マニュアル」とあるように、当初は説明書きが多くハウツーモノを目指していたフシがあるが、しだいに日常エッセイの趣に舵取りされ、近隣の仲間たちとのハートウォーミングなやりとりを中心とした作風へと変化するには10話を待たなかった。主人公のコースケからして、初期は感情をあらわに、それなりにマンガらしい動きをしていたのが、連載も安定してくるにつれだんだんと表情が薄くなり、セリフすら殆ど発さなくなる。そして時にそのストーリーの展開は禅味すら帯びてくる。マニュアルが経典と化す瞬間である。こういった形で、ある意味ぜいたくな時間の使い方を示されると、帰らない時間を思い少し「きゅんとし」てしまう。もしも現代版があるならば、寝床から起きたり戻ったりしながら、スマートホンのゲームをしたり、録画して既に見たタモリ倶楽部をまた見たりして無為に1日を終えてしまうコースケの姿を1編に加えていただきたい。

文=本多正徳
1980年、広島生まれ。専門出版社勤務。マンガナイトではすっかりイジラれ担当になってしまった最近(!?)。男子校の寮でマンガの面白さに目覚めました。好きなジャンルはガロ系とヘタウマ系。藤子不二雄やつげ義春、水木しげるなどの古典的ナンバーも得意。心のマンガは『ダンドリくん(泉昌之)』『サルでも描けるまんが教室(相原コージ、竹熊健太郎)』でしょうか… ほかの趣味は読書、囲碁・将棋と悲しいほどのインドア派。ウェブサイト/グッズ制作を担当。

BROTHERS

かわいい妹と彼女に恋する二人の実の兄のお話。ああそっち系ね〜と判断されそうですが…1991年発表のこの作品、今ご想像されている妹ものとは少し毛色が違います。「魍魎戦記MADARA」や「多重人格探偵サイコ」で知られる作者がお話も担当する青春? もの。正直特に大きな事件も起こらないユルい展開ですが、学園パートは正しく瑞々しく、家族パートはちょっとズレた愛に溢れ、妹&兄二人をはじめとした人物達が活き活きとして気持ちがいいです。バトルで売れた男性作家がこういう作品を描くのは当時珍しかったのでは? もちろん絵はキレッキレ。ヒロイン餡子ちゃんの説得力たるや。セルフパロディもあるよ!

文=牛尾敬子
マンガナイト内ではデザイン諸々と男性メンバー教育を担当。「週刊少年ジャンプ」「週刊少年サンデー」を読んでいた子ども時代から、なぜか「月刊アフタヌーン」に飛躍したマンガ歴を持つ。“聞こえやすい”声質を買われ、イベントでは「牛SHOUT」も披露(参照リンク)。今のお気に入りの作品は「帝一の國」「乙嫁語り」。マンガ以外の趣味は、文鳥とちゃーはんとアイススケート。

片桐くん家に猫がいる

猫マンガというとエッセイ風コミックが多いせいか、猫にスポットが当たりがちで人間キャラは作者さん本人だったり、もしくは傍観者だったりする事が多いのですが、こちらの作品は飼い主である片桐くんのキャラにもスポットが当たっており、猫萌えと共に猫飼い男子萌えを同時に味わう事ができ一石二鳥。最初は3匹だった猫も、最終的には5匹になるのですが、そのどの子達も個性的でとにかくかわいい!の一言!焼き肉メニューで統一されたネーミングセンスは真似したい。猫達が人間のトイレやお風呂についてあれこれ推理を巡す話は何度読んでも笑えます。

fujita
文=ふじた
イベントではブース担当。食べ物に対する執着心は人一倍。 初めて読んだ漫画は「火の鳥 望郷編」で、意味もわからず絵だけをひたすら見てました。 その後「うわさの姫子」にハマり、漫画人生スタート。小学●年生、なかよし、ぶ~け、ハロウィン、週間マーガレットなどを購読。1997~2001年頃のヤングサンデーの連載陣に好きな作品が多いです。

彼女とカメラと彼女の季節

「写真」をカギに展開される、卒業を間近に控えた地方の高校生3人の恋愛模様。主人公・あかりが恋をする相手は、ミステリアスな雰囲気の女子生徒・ユキ。ということで、女性同士の恋愛を描いた百合マンガとしての一面ももちろんあるけれど、それ以上にこれは美しく生々しい青春マンガ。弾むようなときめき、ヒリヒリとしみるような痛々しさ、どす黒くドロリとした劣情…形だけは大人になってしまった私のような読者には、この作品に描かれる感情のすべてがキラキラに包まれていて、とても眩しい!全5巻、じっくり味わいながら、丁寧に読むのがおすすめです。

文=鈴木史恵
1986年2月生まれ、千葉県出身。おもちゃメーカー勤務を経て編集・執筆業へ。マンガ好きとしての原点は物心つく以前から触れてきた手塚治虫と藤子・F・不二雄。24年組、80年代ニューウェーブ、ガロ系、それらの系譜にある青年マンガを中心に、面白そうなものは何でも読みます。マンガ以外の趣味は好きなバンドのライブや映画鑑賞など。

姫100%

親を亡くした男勝りのバイクを乗り回す主人公(そしてちゃんとモテる)というだけでニュータウン社宅育ちのわたしには刺激的でしたが、何より憧れたのは彼女の相棒であるカラスのジャッキー。わたしはカラスが賢く美しい生き物であるということをこの作品で知りました。面白いのは当然として、カラス漫画として世の鳥好きのみなさんに強くおすすめします。

文=牛尾敬子
マンガナイト内ではデザイン諸々と男性メンバー教育を担当。「週刊少年ジャンプ」「週刊少年サンデー」を読んでいた子ども時代から、なぜか「月刊アフタヌーン」に飛躍したマンガ歴を持つ。“聞こえやすい”声質を買われ、イベントでは「牛SHOUT」も披露(参照リンク)。今のお気に入りの作品は「帝一の國」「乙嫁語り」。マンガ以外の趣味は、文鳥とちゃーはんとアイススケート。

恋文日和

タイトル通り「恋文(ラブレター)」をテーマにしたオムニバス作品。手紙、FAX、ビデオ…様々な媒体を通して描かれる、切実でまっすぐな気持ち。笑えて、泣けて「こんな恋がしてみたかった!orしたい!」と、きゅんきゅん必須です。『恋文日和』を読むと→「どの作品が好きか」を語りたくなり→友達に読ませたくなり→好きな作品から恋愛タイプを分析してみたり→また他の人とも語りたくなり…という無限ループに陥ります。私は第一巻の『図書室のラブレター』と第二巻の『真夜中のFAXレター』が大好き。と鼻息アツく語ったところ「あぁ、女子の夢、てかんじ?」とクールぶった男子のことをいつまでも許しません。男子諸君も、是非アツく語ってください!

文=山口文子
1985年生まれ。映画制作を目指して迷走中。歌も詠む。マンガナイト見習いで、執筆などをお手伝い。 女子高時代、魚喃キリコの『短編集』をきっかけに、安野モヨコ、南Q太などフィールヤング系を読みあさる。その後、友達と「週10冊ずつオススメ漫画を交換する」修行を数ヶ月行い、興味のベクトルが全方向へ。 思い入れの強い漫画に『BANANA FISH』、『動物のお医者さん』、『ナンバー吾』。岡崎京子の影響を受け続けて今に至る。

でぃす×こみ

漫画家マンガの中でも異色な作品。マンガ家の日常を垣間見れるだけでなく、マンガの描き方も学べる、コメディ作品として面白い。そして主人公達が描いた実際に作中に出てくるマンガがなんとBL。つまりBLとは何かも学べる。さらにその作中BLマンガにはオノ・ナツメ先生や室井大資先生など著名作家が着色してたり。このように本作は実験的な遊び心満載で、要素がてんこ盛り。でも無駄なおなか一杯感がなくて面白くてお得感がある。そんな絶妙なマンガなんです。

文=山内康裕
1979年生。法政大学イノベーションマネジメント研究科修了(MBA in accounting)。 2009年、マンガを介したコミュニケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成し代表を務める。 イベント・ワークショップ・デザイン・執筆・選書(「このマンガがすごい!」等)を手がける。 また、2010年にはマンガ関連の企画会社「レインボーバード合同会社」を設立し、“マンガ”を軸に施設・展示・販促・商品等のコンテンツプロデュース・キュレーション・プランニング業務等を提供している。 主な実績は「立川まんがぱーく」「東京ワンピースタワー」「池袋シネマチ祭2014」「日本財団これも学習マンガだ!」「アニメorange展」等。 「さいとう・たかを劇画文化財団」理事、「国際文化都市整備機構」監事も務める。共著に『『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方(集英社)』、『人生と勉強に効く学べるマンガ100冊(文藝春秋)』等。

同級生

とうとうアニメ化が決定した中村明日美子先生の「同級生」シリーズ一冊目。少女漫画のような繊細な感情の動きや表現が素晴らしく、読んでいて主人公の肌の透明感や、情景の光の差し込み方を想像させる漫画はそうない。ゆっくり少しずつ、卒業に向かっていく時間と反比例して近づいていく少年たちの距離を、近からず遠からずのところで俯瞰しているような気持ちにさせる表現技法は本当に圧巻だ。この漫画はいわゆるボーイズ・ラブに分類されるが、BLというだけで避けている人は騙されたと思って手にとって見てほしい。

文=kukurer
マンガナイト内では極稀にイベントと極稀にライターを担当。月刊少年ジャンプ・マガジン・りぼん・ちゃお・週刊マガジンで幼少期、多感な時期を花とゆめと同人誌で過ごしました。 ハチミツとクローバー、not simple、高台家の人々、彼女とカメラと彼女の季節、夏の前日を通年推しています。わりと短編や短めのマンガが好みです。 マンガ以外の趣味は、ダイビングとスノーボードと映画。肉とかにみそが好物です。

マリーマリーマリー

職業、ブルースのギター弾き。優しくて料理上手だけど気まぐれで神出鬼没。そんな人がもし自分の前に現れたら? 鍼灸師のリタはそんな彼、森田と結婚します。苦労はするけれど、不思議と面白さわやかに進んでいく新婚生活。リタの愛車クラシック・ミニやビートルズの音楽など、ちょっとレトロなものが大人の少女漫画に彩りを添えています。単行本1巻42‐43ページの、見開きのドライブシーンは私的に一押しです。ぜひ手に取ってお確かめを。

文=kuu
マンガナイトではイベントのお手伝いと、執筆ちらほら。90年前後のなかよし、りぼんなどの影響をやや強く受けてますが、いろいろ読みます。好きな漫画家は、羽海野チカ、佐原ミズ。展覧会と舞台、可愛くて面白いものに心惹かれます。お茶とおいしいものにも。

ももんち

美大合格を目指す予備校生、岡本桃寧(ももね)の日常と淡い恋を描いた物語。あとがきには「70年代から80年代初頭あたりに流行した少女漫画を目指した」とあり、確かに作者の他の作品より、ハートウォーミング度が高い印象を受けました。受験に関する話も多いので、今現在最後の追い込みをかけている人を応援したくなります。ファイト!

文=kuu
マンガナイトではイベントのお手伝いと、執筆ちらほら。90年前後のなかよし、りぼんなどの影響をやや強く受けてますが、いろいろ読みます。好きな漫画家は、羽海野チカ、佐原ミズ。展覧会と舞台、可愛くて面白いものに心惹かれます。お茶とおいしいものにも。

平凡ポンチ

女性目線のリアルなラブストーリーを得意としている作者が、今はなき名雑誌「IKKI」で連載していたやりたい放題のハチャメチャラブストーリー。異常に自分の貧乳に執着する女子高校生とデブでオタクの映画監督がある事件をきっかけに逃亡生活を送ることになるのだが、疾走感溢れる滅裂な展開も濃いキャラクター達による力技で一気に読み進められる。独特な恋愛節も健在で、不思議とキュンとすること間違いなし。

文=ヤマダナナコ
広島生まれ、マレーシア育ち、東京在住。 マンガナイトでは偶にイベントに参加したり、こっそり執筆したりしています。 兄の影響で少年ジャンプから漫画の世界に入り込み、その後なかよしやりぼんで育ちました。今では何でも読む雑食。 無条件で手に取るのは、いくえみ綾、吉田秋生、成田美名子、古谷実あたりの作家さん。 甘いものが大好き。食べ物を与えられていれば大体ご機嫌です。

イロドリミドリ

中学生の甘く切ない初恋物語…と言ってしまえばそれまでですが、思わぬ結末が待っていて切なさ倍増。LINEやEメールではなく、時間差で届いた想いの詰まった手紙を読む主人公につられて、涙がボロボロこぼれました。最近ではあまり見かけないおかっぱ頭&前髪をピン留めで七三分けにした主人公をはじめ、図書館、雪、おばあちゃんち、絵本などのノスタルジックなアイテム選びも巧み。ラストに収録されている2ページものの後日談も必読です。

fujita
文=ふじた
イベントではブース担当。食べ物に対する執着心は人一倍。 初めて読んだ漫画は「火の鳥 望郷編」で、意味もわからず絵だけをひたすら見てました。 その後「うわさの姫子」にハマり、漫画人生スタート。小学●年生、なかよし、ぶ~け、ハロウィン、週間マーガレットなどを購読。1997~2001年頃のヤングサンデーの連載陣に好きな作品が多いです。