華中華

横浜中華街を舞台にした、チャーハンひとすじグルメ漫画、全19巻。高級店で下働きする主人公が、街の小さな店で、安い、うまいメニューを振る舞う。登場する料理は、単行本で1ページずつ使って紹介。合計で124ものレシピは、多くが作中の設定通り、ありふれた食材で再現できそうだ。専門料理漫画として長く続いたのは、原作者の力が大きい。残念ながら西氏の逝去により、傑作和菓子職人漫画『あんどーなつ』とともに未完。両作品とも、主人公のように日々を全力で、大切に生きようと思わせてくれる作品だ。

文=旨井旬一
1978年、山形県山形市生まれ。業界新聞記者歴16年、グルメマンガ蒐集家。取材で主に担当してきた分野はバイオテクノロジーとスマート農業。特に畜産の和牛改良や蜜蜂不足問題、豚コレラ対応など。好きな食べ物は、冷やしたぬき蕎麦。

淋しいのはアンタだけじゃない

『ブラックジャック創作秘話』で注目を集めた吉本浩二さんによる最新のルポマンガです。
聴覚障害者への丁寧な取材を元に聴覚障害者の現実を読者に分かりやすく、過剰なほどに詳細に理解させてくれる作品です。
取材をする中で、「ゴーストライター事件」で有名になった佐村河内氏にたどり着き、取材されること・取材すること、マンガを含めたメディアの役割についても一つの大きなテーマとして、物語を動かしていきます。
聴覚障害にはさまざまな程度があり、また時と場合によって聞こえ方が大きく違うことがあり、一見健常者に見えてしまう分、大きな苦しみを抱えている人は少なくありません。
聴覚障害者について、周囲の人間が理解を深めるとともに、このマンガを通じて「理解者」が増えることで、聴覚障害者当人だけでなく社会全体が、多様性で豊かなものになるのではないかと思わせてくれます。

文=岩崎由美
文京区在住。得意技は、会議運営と「ThinkPad」によるタイピング。打ち合わせで最善策をメンバーに決めさせる技を持つ達人。一方で、「オシャレ番長」としてメンバーの美意識向上に邁進する。好んで読むのは今日マチ子さんや岡崎京子さんら女性の心を描いたマンガ。アート分野の造形も深く、美術鑑賞も趣味にしている。

僕が私になるために

性別違和(性同一性障害)を有する作者が、「身体的」にも「法律的」にも女性になる過程を描いた作品。読めてよかった。作者は性別適合手術(かつては性転換手術と呼んだ)を受けにタイに行くのだが、そこでの出来事は想像の域を超えている。手術って結局何をどうするの?という疑問にも具体的すぎるほど具体的に答えてくれ(この件を平常心で読める男性はいないだろう)、手術前後に作者が吐露する孤独と不安は胸に突き刺さる。手術を終えて日本に帰ってからは法律上も女性となるべく奮闘し、最後は裁判所にも赴く。まさに当事者だからこそ描けた作品。
このように書くと重苦しい作品のようだが、作者の語り方が絶妙。深刻なテーマを軽やかに包み込んで読者に提示してくれる。タイのナースの底抜けの明るさには思わず笑ってしまうこと間違いなし。時には凹みながらも前向きに生きる作者の姿勢が愛おしい。
性の多様性について様々な意見が飛び交う昨今、当事者の具体的な経験を知るという意味でまず手に取ってほしい一冊。

文=青柳拓真
1992年生。10代の多くをシンガポールで過ごす。何度も読み返してきた漫画は「ジョジョの奇妙な冒険」、「鈴木先生」、「それでも町は廻っている」、「三月のライオン」、「魔人探偵脳噛ネウロ」など。漫画の面白さって何なんだろう、「漫画」ってどう定義できるんだろう…とか色んな作品を読んで考えるのが楽しい。オールラウンドなマンガ読みを目指して最近は恐る恐る少女漫画に挑戦中。

クニミツの政

 「選挙で誰に投票すれば」という悩みにずばり応える作品。主人公の熱意と心からの訴えが、「自分のやってほしいことを代わりにやってくれる人を選ぼう」と読者に思わせてくれる。
主人公は縁あって、政治家秘書になった自称「中学中退」の武藤国光。強力なライバルにも負けず、熱意と発想で人を巻き込み、秘書として仕えた政治家を見事当選させる。
政治家は人に応援してもらわないとその職にも就けないし、物事も進められない。究極の人たらしがそろい、あの手この手で「自分に一票を」と訴えてくる。そんな日本の架空の都市の市長選を描くこの作品が強烈に訴える「政治家はひとりひとりが選び、市民によって作られる」という主張はそんな誘惑を跳ね除けさせてくれる。作中にはおそらく現実の政治家をモデルにしたのであろう、様々な政治家が出てくる。それでも最後に勝つのは、地域の人のことを全力で考え抜き、行動すると訴えた政治家。それは作中の市民が、「この政治家の描く未来を共有できる」と思って投票に動いたからだ。
作者の主張が前面に押し出され、今となっては首を傾げる選挙戦略や主張はある。やや品のないギャグも盛り込まれているし、そもそも未成年が政治家秘書をやっていいのか、などなど。しかしこの作品の熱さは「マンガだから理想」とシニカルに構えることを許さない。「マンガを読んでバスケットボールやサッカーを始めるのと同じように、選挙マンガを読んで、誰となら未来を共有できるか考えて投票しよう」と考えさせる。
難しいのは「自分のやってほしいこと」は本人が決めなければならないということ。しかし小さなことでもいいから「こうなってほしい」ということを見つけて、一票を託す相手を決めたい。

文=bookish
1981年生まれ。「ドラえもん」「ブラック・ジャック」から「週刊少年ジャンプ」へと順当なまんが道を邁進。途中で「りぼん」「なかよし」「マーガレット」も加わりました。主食はいまでも少年マンガですが、おもしろければどんなジャンルも読むので常におもしろい作品を募集。歴史や壮大な物語をベースにしたマンガが好み。マンガ評論を勉強中。マンガナイト内では「STUDIOVOICE」のコラムなど書き物担当になっています。マンガ以外の趣味は、読書に舞台鑑賞。最近はサイクリングも。

「ガンダム」を創った男たち。

富野由悠季氏ら、「機動戦士ガンダム」シリーズを生み出した人々の姿を、基本的な事実を押さえてドキュメンタリー風に描いたギャグマンガ。「新しいアニメを生み出す」という富野氏、アニメーターの安彦良和氏らの熱量が、マンガ家・大和田秀樹氏の熱量で増幅され、当時の熱気や可能性が無限に膨らんで伝わってくる。ギャグマンガ的表現や誇張もあるだろうが、「新しい何かを作り出すときのパワーとはこういうもの」と納得させてくれた。アニメから映画への展開、ファンの巻き込み、そして目の肥えたオトナを満足させる表現手法の革新――今のアニメ業界がやっていることの原点を垣間見た。玩具メーカーや映画会社が関係してくるからこその生々しいお金の話も含めて、だ。史実をもとに物語を展開する大河ドラマ的面白さが味わえる。多くのアニメが放映されては消費されていく今こそ、新しいことを進める覚悟と熱量を知るために必読のマンガではないだろうか。
ちなみに私自身は、当時の関係者による書籍であとからガンダムシリーズを知った人間だ。そんな私も改めて「この熱量で生み出されたアニメは一体どんなものか」と、見たくなった。特に映画版が気になる。ガンダムシリーズを良く知らない人こそ読むと新しい世界が開けそうだ。

文=bookish
1981年生まれ。「ドラえもん」「ブラック・ジャック」から「週刊少年ジャンプ」へと順当なまんが道を邁進。途中で「りぼん」「なかよし」「マーガレット」も加わりました。主食はいまでも少年マンガですが、おもしろければどんなジャンルも読むので常におもしろい作品を募集。歴史や壮大な物語をベースにしたマンガが好み。マンガ評論を勉強中。マンガナイト内では「STUDIOVOICE」のコラムなど書き物担当になっています。マンガ以外の趣味は、読書に舞台鑑賞。最近はサイクリングも。

わがままちえちゃん

ちえの双子の妹の「さほ」は、交通事故で亡くなった。さほが死んだのは自分のせいだと思っているちえは、自分にとって都合の良いさほの夢を何度も見るほど、自分を許してほしいと思っている。この漫画は、ちえの切実な願望、それに巻き込まれる人間たちとの出会いを通して、ちえの心の成長を描いている。
兄弟姉妹とは、同じ血肉を分け合った仲だが、実は儚く脆い関係性であり生涯永遠のライバルなのでは、と私は思う。恐らく兄弟姉妹がいる人は、一度くらい相手と比べられる恐怖や劣等感を感じたことがあるだろう。それらを、ちえという双子の姉の視点から、濁すことなくストレートに描ききっている。兄弟姉妹がいる人、比べられることに嫌悪感を抱いている人に是非読んでほしい一冊。

文=山口麻衣
1996年生、長野県出身。漫画のジャンルは特にこだわらずに読むが、中でも少女漫画をよく読む。少年漫画はバトル物でもスポーツ物でも、とにかく主人公が熱い性格なものが好き。「となりの怪物くん」「電撃デイジー」「ONE PIECE」「アイシールド21」は何度読み返したかわからない。マンガナイトに入り、読んだことのないジャンルの漫画をたくさん知り、漫画に対しての興味が尽きない毎日である。

おふろどうぞ

人の見たくない面をえぐって表に出してみせことで定評のあるマンガ家、渡辺ペコさんの短編集。お風呂をテーマにしたもので、表紙や帯の文句マから「お風呂でくつろぎ日々のいやなことを忘れて気分転換する内容?」と思って読んだら、いい意味で裏切られた。「お風呂」で心の鎧を脱ぐことで、気分転換するどころか、緩んだ心の隙間から、人間の抱える業、どろどろした思いや思わぬ本音がオープンになり、登場人物らは(そして読者も)それまで目を背けていた事実と向き合わざるをえなくなる。渡辺さん独特の、繊細な線で描かれると、あたかも登場人物らに起こったことが自分にも起こりそうで、お風呂という場と向き合うのに戸惑うかもしれない。それでもお風呂に惹かれるのは、自分ともしくは一緒に入る人との距離が縮まるから。現実人は社会の様々な場面で、その場面に合う役割を求められ、自然と心の鎧は分厚くならざるをえない。少し怖いけれども、心の鎧を脱ぎ捨ててみたい人こそ、このマンガを読んでお風呂に入るべきでしょう。

文=bookish
1981年生まれ。「ドラえもん」「ブラック・ジャック」から「週刊少年ジャンプ」へと順当なまんが道を邁進。途中で「りぼん」「なかよし」「マーガレット」も加わりました。主食はいまでも少年マンガですが、おもしろければどんなジャンルも読むので常におもしろい作品を募集。歴史や壮大な物語をベースにしたマンガが好み。マンガ評論を勉強中。マンガナイト内では「STUDIOVOICE」のコラムなど書き物担当になっています。マンガ以外の趣味は、読書に舞台鑑賞。最近はサイクリングも。

カナリアたちの舟

「宇宙人が襲来し、突然謎の文明に囲まれた異世界で目を覚ました女子高生のユリ。そこで唯一出会った男性・千宙(ちひろ)と一緒に、その世界をサバイバルしていくことに…」というあらすじだけではこの作品の独特な良さが伝わりきらない~と紹介に迷う作品でした。アフタヌーンらしいSFマンガですが、サバイバル要素があり、ボーイミーツガール的でもあり、主人公の成長ものでもあり…いろいろな角度から楽しめる作品であることは間違いないです。
6話完結の作品で、これが初単行本とは信じられないほど、無駄な回がなくきれいにまとめられています。そして良い意味でも悪い意味でももやもやする読後感です。不条理な目に合って、自分の力でどうすることもできない状況に陥ったとき、自分ならどうするだろうと思わず考えてしまいました。ユリのとった行動が正しいかはわからない。けれども正解がわからなくても走る姿は、とても愛おしくかっこよくも思いました。
ただし決してハッピーエンドではない終わり方。「ユリが『あの景色』を見ていたら違ったラストだったのでは」とおそらく全ての読者に思わせただろう作者の力量がすばらしいです。セリフやシーンの一つひとつがあとになって意味を増す、何度でも読み返したくなる作品でした。

文=松尾奈々絵
1992年生まれ。少女漫画から青年漫画まで好きです。趣味は野球観戦。

Loved Circus

男性同士の恋愛を描く「ボーイズラブ(BL)」。特殊な題材ゆえに外からは注目を浴びにくいジャンルではありますが、この分野には時々、「BL」の一言では形容しづらい個性的な作品が現れることも。こちらも、そんなBLレーベル発の一風変わったマンガです。
主人公は、いろいろあって人生に絶望していた平凡なサラリーマン・ケイ。流されやすい性格の彼がゲイ専門の風俗店「サーカス」で働くことになってしまうところから、物語はスタート。3人の個性的な同僚と「サーカス」での日々を過ごす中で、ケイ自身や周囲に起きていく変化が描かれます。
面白いのは、「男性キャラクターを個性豊かに、魅力的に、そして色気を交えて描く」というBLらしい技法が駆使されていながら、展開されるストーリーには、実はBL的・恋愛的要素が薄いところ。「ゲイ専門の風俗店」という舞台、登場人物たちの関係性にその「香り」は漂っているものの、全体を見れば、これはあくまで「サーカス」という場に身を置き人生の一部を共有した男たちの人間ドラマ。そのギャップが、不思議な読後感につながります。
「マンガは好き、でもBLはちょっと…」という人にも、是非おすすめしたい一作です。

文=鈴木史恵
1986年2月生まれ、千葉県出身。おもちゃメーカー勤務を経て編集・執筆業へ。マンガ好きとしての原点は物心つく以前から触れてきた手塚治虫と藤子・F・不二雄。24年組、80年代ニューウェーブ、ガロ系、それらの系譜にある青年マンガを中心に、面白そうなものは何でも読みます。マンガ以外の趣味は好きなバンドのライブや映画鑑賞など。

SHERLOCK 大いなるゲーム

マルチメディア展開の一環で、映像作品がマンガ化されたとき、スピード感や迫力に欠け、がっかりすることも少なくない。しかし、英BBCのドラマ「SHELOCK」をマンガ化した「SHERLOCK 大いなるゲーム」は、ドラマの言葉遊びを絶妙な台詞回しで、スピード感を自由自在なコマ割りで再現し、ミステリーマンガとして完成させた。お互いを理解し合った、名探偵ホームズと、助手のワトソンのコンビのやりとりも楽しい。
物語は、ホームズ・ワトソンのコンビと、ホームズの宿敵、モリアーティの対決を中心に進む。基になったドラマは、探偵小説の傑作の一つ、「シャーロック・ホームズシリーズ」の舞台を現代に翻案したもの。ホームズらはスマートフォンを操り、ワトソンは事件録をブログで発表、捜査では最新の科学技術を駆使している。しかし、それでも崩れないのが「ホームズの世界」。謎を見抜き、鋭く指摘するホームズの姿はコナン・ドイル氏の描いたホームズそのもの。ドラマを見てから読んでも、ドラマを見る前に読んでも、どちらでも楽しめる作品だ。

文=bookish
1981年生まれ。「ドラえもん」「ブラック・ジャック」から「週刊少年ジャンプ」へと順当なまんが道を邁進。途中で「りぼん」「なかよし」「マーガレット」も加わりました。主食はいまでも少年マンガですが、おもしろければどんなジャンルも読むので常におもしろい作品を募集。歴史や壮大な物語をベースにしたマンガが好み。マンガ評論を勉強中。マンガナイト内では「STUDIOVOICE」のコラムなど書き物担当になっています。マンガ以外の趣味は、読書に舞台鑑賞。最近はサイクリングも。

死者の書

本好きなら一度は挑戦する折口信夫氏の『死者の書』。これを『五色の舟』などで知られるマンガ家、近藤ようこ氏がコミック化した。折口氏の世界をマンガで垣間見ることができるありがたさはもちろん、近藤氏の線の力によって、現世とあの世の境界にいるものに対する畏怖の念をより強く感じられるようになっている。
舞台は、孝謙天皇の時代。仏の教えに魅せられた貴族の娘と、その娘を、死してなお恋い求める元皇子を中心に、現世とあの世の境目で揺れる人々の姿が描かれる。読者は、彼らがどこへいくのか、と常に不安を感じながら読まざるをえない。
原作に比べて言葉が省略されたマンガでありながら、この境界線上の世界を読者が感じられるのは、近藤氏の線の力によるところが大きい。近藤氏の手書きとみられるゆったりした線や、ホワイトインクで描かれる擬音語「した した」などの表現手法が幻想世界のイメージ化にぴったりと当てはまる。読み進めるにつれて、どこからともなく「こう」「こう」という音が頭の中に響き、読者は死者と生者が交わるぎりぎりの世界を感じることができる。

文=bookish
1981年生まれ。「ドラえもん」「ブラック・ジャック」から「週刊少年ジャンプ」へと順当なまんが道を邁進。途中で「りぼん」「なかよし」「マーガレット」も加わりました。主食はいまでも少年マンガですが、おもしろければどんなジャンルも読むので常におもしろい作品を募集。歴史や壮大な物語をベースにしたマンガが好み。マンガ評論を勉強中。マンガナイト内では「STUDIOVOICE」のコラムなど書き物担当になっています。マンガ以外の趣味は、読書に舞台鑑賞。最近はサイクリングも。

いぬにほん印刷製版部

残業・社泊は当たり前の、ちょっとブラックな印刷会社を舞台にした業界マンガ。冷静に見ると過酷な環境でありながら、登場人物たちは努めて明るく前向きに働いているので、自分も頑張ろうという気持ちになれる。
絶え間なくトラブルに見舞われる一方で、淡々とした4コマ風のコマ割りと一定のテンポが、無限地獄のように終わらない日常を感じさせてちょっと怖い。振りかかる災難に、「紙の本が好き」という理由だけで立ち向かう健気な主人公や仲間たちには、いつか平穏が訪れてほしい!
読み終わったあと、カバーをめくった表紙にも2ページ分のマンガを発見した時は、得をした気分になった。あと、このマンガを刷った印刷所の人は内容を読んだのか、そしてどのような感想を持ったのかが少し気になる。

文=本多正徳
1980年、広島生まれ。専門出版社勤務。マンガナイトではすっかりイジラれ担当になってしまった最近(!?)。男子校の寮でマンガの面白さに目覚めました。好きなジャンルはガロ系とヘタウマ系。藤子不二雄やつげ義春、水木しげるなどの古典的ナンバーも得意。心のマンガは『ダンドリくん(泉昌之)』『サルでも描けるまんが教室(相原コージ、竹熊健太郎)』でしょうか… ほかの趣味は読書、囲碁・将棋と悲しいほどのインドア派。ウェブサイト/グッズ制作を担当。

翔んで埼玉

インターネット上でよくネタにされる埼玉県を遠慮なくディスっていて、差別表現大丈夫なの……?と心配になるレベル。
たとえば東京都民と埼玉県民は歩ける道が違う。飲食店で頼める注文メニューも違う。野望ある埼玉県民は都民に養子入りしたり、うまいこと潜り込まなければならない……。その中で都民と埼玉県民が出会い、恋に落ちてしまう、埼玉版『ロミオとジュリエット』。
コミックスは2015年に発売されたものの、なんと初出は1980年代の『花とゆめ』である。キラキラしたあの少女漫画誌に、こんなアブない作品が掲載されていたとはとても想像がつかない。時代は変わる。
差別撤廃をぶっ飛んだ作風で後押ししてるのか、逆にやや過敏になりがちな物事を風刺しているのか、そもそもノリだけの物語なのか、何度読んでもよくわからない。でも読んでしまう。そして繰り返していくうちに「どこに住んでるかとか格差とか、なんかどうでもよくなってくるな……」とふと思ったりする。
仕事や日常に疲れた時、ぼんやりとなにも考えずに読むと脱力できそう。
それがこの作品の力なのかもしれない……。

文=ユハラカナ
ユハラです。 ふだんはIT企業で働いてます。小説アニメ漫画短詩、なんでもいけます。ジャンル問わず嗜みますが、起承転結のない淡々とした物語を好む傾向があります。ほかには和の文化にも興味があります。座禅とか盆栽とか。ユパというあだ名がつきやすく、ユパ様と呼ばれがちですが、ただの一般人です。

Tシャツ日和

突然ですが質問です。Tシャツとはいったい何でしょうか。
頭からかぶって着用する襟のない丸首のシャツ。左右に広げた時にTの形に見える。下着でもあり、ファッションアイテムとしても定番。自己表現の手段として用いられることもある、などなど。多くの人にとって身近なものですが、実はけっこう奥深いものかもしれません。そんなTシャツが重要な役割を果たすマンガがこの「Tシャツ日和」です。
戦闘服としてTシャツを身にまとう漫画家のエピソードに始まり、物語は宇宙へ行ったり、庵野秀明監督が出てきたり、いわしが大漁だったりするオムニバス。え?意味がわからない?気になった人はぜひ本の中へ。
マンガ、音楽、映画(特に単館系)、アニメのどれか一つでも好きな人には刺さると確信しています。もちろん、Tシャツ好きな人は言わずもがな。
今なら作者オリジナルTシャツとアストロ球団Tシャツプレゼントに応募できますよ!!(2016年3月31日まで、当日消印有効)

文=kuu
マンガナイトではイベントのお手伝いと、執筆ちらほら。90年前後のなかよし、りぼんなどの影響をやや強く受けてますが、いろいろ読みます。好きな漫画家は、羽海野チカ、佐原ミズ。展覧会と舞台、可愛くて面白いものに心惹かれます。お茶とおいしいものにも。

月は囁く

探偵漫画が数多く存在する中、“顔の表情”を分析して事件を解決する新手の探偵が現れた。
「月は囁く」は、天才心理学者の美少女・月(ユエ)が、刑事である義兄の陽一と事件を解き明かしていく作品。
その推理の術は、人の容貌・骨格から心理を判断する中国の学問「観相」だ。
容疑者に質問を投げかけ視線から嘘を見抜いたり、眉間の色合いから犯人の目星をつけたり。「48種の表情筋の組み合わせが真実を語るんだ」と、観相の科学的知識に基づいてユエは捜査を圧倒的有利に進めていく。
江戸川コナンでも金田一一でも踏めないプロセスと、スピード感が新感覚。飲み会や面接など実際の生活で試してみたくなる、観相の入門書としても最適だ。

文=黒木貴啓
1988年生、鹿児島出身、東京在住のライター。マンガナイトでは執筆を担当してます。ロックンロール、もしくは仮面が題材の漫画を収集&研究中。大橋裕之「音楽と漫画」、榎屋克優「日々ロック」、そして何よりハロルド作石「BECK」……日本人が成したことないロックの魔法を漫画のキャラが見せてくれるところに、希望を感じてしまいます。

サユリ 完全版

父の念願のマイホーム。父、母、姉、弟、則雄の5人家族に、離れて暮らしていた祖父母も加わり、一家7人での温かな生活が始まる。でも、そこにはサユリがいた。1人また1人。幸せな家族のピースは、あっけなく、一瞬で、欠ける。
ホラーと名のつくもの全てを避け続け、大人になってしまいました。手に入れてから読むまでに3週間ほどびくびく。意を決して真昼間に手を出す。怖い。こんな怪しげな家買うなよ、いいから早く引っ越せよ…とぶつぶつ。何か起きると分かって読んでいるのに、絵の迫力で直に神経が揺さぶられる。ページをめくるだけで心臓に悪い。一家が一瞬でばらばらにされるあまりの理不尽さに読むのをやめたくなる。しかし、この作品は絶対に途中で投げ出してはいけません。後半からの怒涛の展開はもう目が離せない。読み手の予想は痛快に裏切られ、読み終えてからはしばし放心。全力疾走した後のような疲労感とちょっとした清々しさが身体に残る。
眠れない夜、ふと暗闇が怖くなるときにも「どう怖がらないか」ではなく「どう戦うか」と思考を切り替えさせてくれる一冊。

文=青柳拓真
1992年生。10代の多くをシンガポールで過ごす。何度も読み返してきた漫画は「ジョジョの奇妙な冒険」、「鈴木先生」、「それでも町は廻っている」、「三月のライオン」、「魔人探偵脳噛ネウロ」など。漫画の面白さって何なんだろう、「漫画」ってどう定義できるんだろう…とか色んな作品を読んで考えるのが楽しい。オールラウンドなマンガ読みを目指して最近は恐る恐る少女漫画に挑戦中。

親なるもの 断崖

強烈な印象を与えるバナー広告を、あなたも一度は目にしているのではないでしょうか? 電子コミック書店での配信が話題となり、初出から25年を経て紙媒体での新装版刊行に至った本作の舞台は、「鉄の街」として隆盛を誇った昭和初期の北海道・室蘭。飢饉にあえぐ青森の農村からこの土地の花街「幕西遊郭」に売られてきた4人の少女の、数奇な生涯を追っています。
ただでさえ公に語られることはめったにない世界を、ひたすら荒々しく、かつ厳然とした筆致で表現したこの作品。物語自体はフィクションということですが、綿密な取材と調査に基づき、歴史的事実を伝えることを大きな目的の一つとして描かれていることが、明確に見て取れます。
読後に重くのしかかるのが、主人公の一人・お梅の「せめて忘れないでいて欲しい 私のような女たちがいたことを」という独白。読むのに覚悟が要る、場面によっては目を背けたくなる、けれど、読んだことを決して後悔はしない――そんなマンガです。

文=鈴木史恵
1986年2月生まれ、千葉県出身。おもちゃメーカー勤務を経て編集・執筆業へ。マンガ好きとしての原点は物心つく以前から触れてきた手塚治虫と藤子・F・不二雄。24年組、80年代ニューウェーブ、ガロ系、それらの系譜にある青年マンガを中心に、面白そうなものは何でも読みます。マンガ以外の趣味は好きなバンドのライブや映画鑑賞など。

宇宙を駆けるよだか

「顔が良いほうが得をする。」誰もが一度は聞いたことがある言葉ではないだろうか。そして、性格に関係なく顔で物事は決まってしまうのかと疑問に思ったことはないだろうか。この漫画は大胆にもそのような疑問をテーマとし、読者それぞれ何かしらの答えが出せるようなラストとなっている。基本シリアスな雰囲気で物語は進んでいくが、絶妙なバランスで恋愛の要素もあり、気負わず読むことができた。繊細なタッチの画風に油断していると、人間の毒々しい感情の見事な描写に、ゾッとすることも多々あった。非常にテンポ良く進むので、一味違う少女漫画を読みたいときに気軽に読んでみては。

文=山口麻衣
1996年生、長野県出身。漫画のジャンルは特にこだわらずに読むが、中でも少女漫画をよく読む。少年漫画はバトル物でもスポーツ物でも、とにかく主人公が熱い性格なものが好き。「となりの怪物くん」「電撃デイジー」「ONE PIECE」「アイシールド21」は何度読み返したかわからない。マンガナイトに入り、読んだことのないジャンルの漫画をたくさん知り、漫画に対しての興味が尽きない毎日である。

鬼さん、どちら

頭に角が生えている「鬼」のいる世界。彼らは三千人にひとりの確率で生まれ、「先天性頭部突起症」と認定を受け暮らしていた。鬼でない者は鬼に様々な種類の偏見を持ち、鬼は「可哀想な者」扱いされる自身を縛っていく。何ひとつ超常的な力を持たない鬼たちの存在により、日常生活に潜む様々な負の感情が引っ張り出される。恐れによる思い込みや小さな優越感などの厄介さに、心当たりがある人も少なくはないだろう。簡単に解決しない問題から自由になるにはどうすればいいか。シリアスに、時に温かくその術を教えてくれる作品です。各話のタイトルも秀逸。

文=kuu
マンガナイトではイベントのお手伝いと、執筆ちらほら。90年前後のなかよし、りぼんなどの影響をやや強く受けてますが、いろいろ読みます。好きな漫画家は、羽海野チカ、佐原ミズ。展覧会と舞台、可愛くて面白いものに心惹かれます。お茶とおいしいものにも。

わっちゃんはふうりん

複雑な環境のなか、しなやかに生きるキャラクターたちの人間らしさに、何度も読み返したくなる物語。主人公は問屋の若旦那である八衛と、その愛人と噂されるわっちゃん。そして八衛の異母弟である稲造。わっちゃんが稲造と徐々に距離を縮めていく話なのか、ととらえて読み進めていくと、最後には八衛と稲造の関係性のほうが印象に残っていた。恋愛や家族愛だけでなく、男同士の繊細な関係を読みたい人にとっても楽しめる作品かもしれない。「もっと素直になればいいのに……」と思う人間の不器用さや意固地な部分を愛おしく思える。

文=ユハラカナ
ユハラです。 ふだんはIT企業で働いてます。小説アニメ漫画短詩、なんでもいけます。ジャンル問わず嗜みますが、起承転結のない淡々とした物語を好む傾向があります。ほかには和の文化にも興味があります。座禅とか盆栽とか。ユパというあだ名がつきやすく、ユパ様と呼ばれがちですが、ただの一般人です。

チーズ・イン・ザ・トラップ

今回もLINE漫画からの韓国作品。サムネイルだけで「モテモテ女子の三角関係物語?」と勝手に判断して、特に気にもしていなかった作品でしたが、読み出したら止まらなくなりました。容姿は芸能人レベル、おまけにリッチな上に成績は首席の先輩。誰もが憧れ、一目置く完璧な彼に対し、賢い主人公は得体のしれない感情を抱き、彼とは親しくせず一定の距離を取ろうとします。主人公の不信感に気付き、何かと距離を縮めようと画策してくる先輩。恋愛感情はお互いに無いながらも、何かと気遣ってくれる先輩に対し徐々に気を許していく主人公ですが、先輩の周りには不穏な空気が常に漂い全く気が抜けない。時系列が行ったり来たりして、時々わからなくなる時もあるのですが、登場人物たちの感情・葛藤・人間関係・過去などが複雑ながらも、みんな理解できるし共感できます。正直、最近の日本の女性向け漫画でここまでハラハラドキドキしながら読める作品はないのではないでしょうか。絵柄も日本作品ではあまり見ないテイストですが、大変魅力的。こんな良質なカラー作品を無料で読んでいいのか、と心配になります。ただのアンニュイ気取りの恋愛漫画でない、複雑でスリリングな人間模様を描いた上質な作品を求めるあなたにぜひ読んでいただきたいです。男性が読んでも面白いと思いますよ!

fujita
文=ふじた
イベントではブース担当。食べ物に対する執着心は人一倍。 初めて読んだ漫画は「火の鳥 望郷編」で、意味もわからず絵だけをひたすら見てました。 その後「うわさの姫子」にハマり、漫画人生スタート。小学●年生、なかよし、ぶ~け、ハロウィン、週間マーガレットなどを購読。1997~2001年頃のヤングサンデーの連載陣に好きな作品が多いです。

王様たちのヴァイキング

最近「面白い漫画は」と社会人に聞かれたら勧めることにしている作品のひとつ。元ハッカーとエンジェル投資家が組み、IT分野での起業を目指す物語。起業家のほぼリアルな姿が描かれると同時に、最新のITトレンド、サイバー戦争、起業の厳しさを知ることができるのも面白い。自分が足を止めそうなときに読むと、登場人物らの「やってやる」という熱意に背中を押されます。カバー下の設定まで熟読してほしいです。

文=bookish
1981年生まれ。「ドラえもん」「ブラック・ジャック」から「週刊少年ジャンプ」へと順当なまんが道を邁進。途中で「りぼん」「なかよし」「マーガレット」も加わりました。主食はいまでも少年マンガですが、おもしろければどんなジャンルも読むので常におもしろい作品を募集。歴史や壮大な物語をベースにしたマンガが好み。マンガ評論を勉強中。マンガナイト内では「STUDIOVOICE」のコラムなど書き物担当になっています。マンガ以外の趣味は、読書に舞台鑑賞。最近はサイクリングも。

ワールドトリガー

週刊少年ジャンプ発の良質のSFマンガ。「異世界からの侵略」「子どもの戦い」というジュブナイルSFの基本を押さえつつ、戦い方の仕組みや世界観の設定が秀逸。伏線も多くむしろ小難しい設定が好きな大人こそ楽しめる作品です。SF好きは必読でしょう。戦闘や復讐、侵略といった人間の行動の暗い側面についていろいろな思惑を持つ人物が登場し、それぞれの考えをぶつけ合うのも特徴。「自分なら」「なぜ戦うのか」を考えてみるのも一興です。

文=bookish
1981年生まれ。「ドラえもん」「ブラック・ジャック」から「週刊少年ジャンプ」へと順当なまんが道を邁進。途中で「りぼん」「なかよし」「マーガレット」も加わりました。主食はいまでも少年マンガですが、おもしろければどんなジャンルも読むので常におもしろい作品を募集。歴史や壮大な物語をベースにしたマンガが好み。マンガ評論を勉強中。マンガナイト内では「STUDIOVOICE」のコラムなど書き物担当になっています。マンガ以外の趣味は、読書に舞台鑑賞。最近はサイクリングも。

羊の木

元受刑者を地方都市へ移住させる政府の極秘プロジェクトが巻き起こす、ある漁村の顛末記。山上たつひこのストーリーと、いがらしみきおの記号的で空虚な絵のタッチが不思議なマッチングを見せている。日常風景に民俗的なホラーとギャグが重なり、展開の緩急も読めない。名作の低予算映画を見ているような、マンガでは珍しい魅力があった。怖い(気持ち悪い)もの見たさの感覚が刺激され続ける。最終巻の最後ではちょっとしたタネ明かし的な一幕もあり、意外と読後感は良い。

文=本多正徳
1980年、広島生まれ。専門出版社勤務。マンガナイトではすっかりイジラれ担当になってしまった最近(!?)。男子校の寮でマンガの面白さに目覚めました。好きなジャンルはガロ系とヘタウマ系。藤子不二雄やつげ義春、水木しげるなどの古典的ナンバーも得意。心のマンガは『ダンドリくん(泉昌之)』『サルでも描けるまんが教室(相原コージ、竹熊健太郎)』でしょうか… ほかの趣味は読書、囲碁・将棋と悲しいほどのインドア派。ウェブサイト/グッズ制作を担当。

TRIGUN

何かをあきらめそうになったり、投げやりになってしまいそうな時に読み返したいマンガです。舞台は地球から遠く離れた惑星。人は住めなくなった地球から逃げ出し、荒れた砂漠の地で、「プラント」というエネルギー装置にすがって生きるしかなくなりました。そんな過酷な環境のなかで、いつも笑顔で「ラブ&ピース」を叫んでいる男が、主人公のヴァッシュです。しかし、誰よりも過酷な環境にいたのは、ほかでもない彼でした。ヴァッシュは、ある理由で、人に恨まれ、敵意を向けられることも少なくありません。それでも、ヴァッシュは最後まで自分の大切なものを守るために、「ラブ&ピース」を唱えて、戦い続けます。やれやれ系主人公に飽きたらぜひ。元気がわいてきます!

文=松尾奈々絵
1992年生まれ。少女漫画から青年漫画まで好きです。趣味は野球観戦。

おとろし

江戸から現代まで、様々な時代を舞台とした、1編6ページのホラー・ショートショート集。ここで描かれるのは、たとえるなら「日陰の大きな石を裏返したところ」のような、じっとりと冷たく湿った恐怖です。派手でわかりやすい演出も、複雑な物語も、話によっては明確なオチすらない。でも、その静かな不気味さが妙にクセになる! 4コマエッセイの中でもたびたび怖い話、不思議な物事に対しての関心を語ってきた作者が満を持して? 挑んだ新境地ですが、本作はホラー漫画の中でも、間違いなく唯一無二の存在感を持っています。どこか落語的な雰囲気も含めて、非常に「日本」を感じさせる一冊。

文=鈴木史恵
1986年2月生まれ、千葉県出身。おもちゃメーカー勤務を経て編集・執筆業へ。マンガ好きとしての原点は物心つく以前から触れてきた手塚治虫と藤子・F・不二雄。24年組、80年代ニューウェーブ、ガロ系、それらの系譜にある青年マンガを中心に、面白そうなものは何でも読みます。マンガ以外の趣味は好きなバンドのライブや映画鑑賞など。

のーぷろぶれむ家族

友達に知られたくない、家族のこと。中でもこのマンガの設定は振り切れていて、主人公の女の子の父親が、なぜか人形と再婚し、父親だけがその人形を本当に妻だと思っているというお話です。女の子は必死にこの父親と母親とされている人形の存在を内緒にします。この作品のなかで一番心に残ったのは、主人公とその人形が1対1で話し合う場面。もちろん、人形なので何もしゃべることはありません。けれども人形に本心をぶつける姿は、なぜか、すこしすっきりします。会話はキャッチボールとも言いますが、いつもキャッチボールをする必要はなく、時には思っていることをすべて吐き出す場所があってもいいのかなあ、と考えさせられました。

文=松尾奈々絵
1992年生まれ。少女漫画から青年漫画まで好きです。趣味は野球観戦。

有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。

水木しげるそっくり!の画風で、名前だけは聞いたことがあるような名作文学を10ページ内外の超スピードで紹介した短編マンガ集。「ドグラ・マグラ」のような長編から「山月記」のような短編まで、なかよくダイジェストされている。「行間」ならぬ「コマ間」の時間感覚を自在に伸縮させられる妖怪画風があってこそ、このスタイルが成立したんだろう。読んで「原作の方が良いな」と思うのもまた一興。知ったかぶりをするのにもおすすめ!

文=本多正徳
1980年、広島生まれ。専門出版社勤務。マンガナイトではすっかりイジラれ担当になってしまった最近(!?)。男子校の寮でマンガの面白さに目覚めました。好きなジャンルはガロ系とヘタウマ系。藤子不二雄やつげ義春、水木しげるなどの古典的ナンバーも得意。心のマンガは『ダンドリくん(泉昌之)』『サルでも描けるまんが教室(相原コージ、竹熊健太郎)』でしょうか… ほかの趣味は読書、囲碁・将棋と悲しいほどのインドア派。ウェブサイト/グッズ制作を担当。

赤の世界

少し不安を誘うような赤い表紙をめくると、そこには4つの短編が収められています。「とある戦争がもたらしたもの」が共通の題材となっていますが陰惨ではなく、じわりと胸にしみてくる作品ばかりです。「鳩の世界」に出てくる鳩たちの愛らしさや、「朗読時間」のヒロインの感情の揺れ動きは見どころ。最後は希望が残る終わり方になっているので、あらゆる世代の人におすすめしたいです。日々の生活で忘れがちな、大切なことの再確認にぜひ。

文=kuu
マンガナイトではイベントのお手伝いと、執筆ちらほら。90年前後のなかよし、りぼんなどの影響をやや強く受けてますが、いろいろ読みます。好きな漫画家は、羽海野チカ、佐原ミズ。展覧会と舞台、可愛くて面白いものに心惹かれます。お茶とおいしいものにも。

トクサツガガガ

「いい年した大人が…」と言われてしまう、漫画やアニメ趣味。「トクサツガガガ」は、少年向けの「特撮ヒーロー」が大好きなOL・仲村さんが主人公です。といっても、この作品の魅力は、マニアックな趣味の共感ではありません。主人公の仲村さんがとにかくかっこいいのです!仲村さんは、職場や日常生活で困ったことがあると、自分の大好きな「特撮ヒーロー」のかっこいい場面を思い出し、大人として見事に問題を解決していきます。リーダーシップと優しさを兼ね備えた仲村さんを見ていると、大人にこそ、特撮ヒーローは必要なのでは、と思わせてくれるのです。

文=松尾奈々絵
1992年生まれ。少女漫画から青年漫画まで好きです。趣味は野球観戦。

スピ☆散歩

いわゆる「視える」ホラー漫画家が、日本各地(たまにスリランカ)のパワースポットを巡るエッセイマンガ。と書くとすごい世界に片足をつっこみそうだけど、作者自身が「もしかしたら私の妄想かもしれないし、へっぽこ霊感なので……」とたまにつっこみをいれるので、安心の距離感で読める。女形の神様からなぞの巨人まで出てくる不思議ワールドではあるものの、作者の視線がとても優しいので「こじつけじゃん……」みたいな自分の凝り固まった頭にふと反省できたりもする。常識でははかれない価値観に触れたくなった時に読むといいかも。

文=ユハラカナ
ユハラです。 ふだんはIT企業で働いてます。小説アニメ漫画短詩、なんでもいけます。ジャンル問わず嗜みますが、起承転結のない淡々とした物語を好む傾向があります。ほかには和の文化にも興味があります。座禅とか盆栽とか。ユパというあだ名がつきやすく、ユパ様と呼ばれがちですが、ただの一般人です。

School Rumble

高校生活を舞台としたラブコメの中でも、学校行事のアレンジに長けた作品。プール掃除をさせれば、デッキブラシ&石鹸でホッケーが始まるスポーツ漫画となり、体育祭で騎馬戦をさせれば、プロレス技が応酬するバトル漫画となる。文化祭の出し物を決める際も、修学旅行の自由行動も、卒業アルバムの制作も、当然一筋縄ではいかないわけで…。無難に工程が組まれた学校行事に対して、時に教師達すら巻き込みながら「一度しかない高校生活を最高な思い出にするために」自主的にアレンジしていく登場人物達のアグレッシブさには、唸りをあげること間違いなし!退屈な日常に愚痴がこぼれそうになった時に読んで欲しい作品です。

文=小谷中宏太
1991年生。千葉県市川市出身。普段は、行政機関や不動産デベロッパー等に対して「人が集まり、賑わいが生まれる場」を企画・提案する仕事をしています。マンガナイトに参画した理由は、仕事の一環として、マンガが持つコミュニケーションツールとしての可能性に注目していたこともありますが、やはりマンガやアニメについて思いっきり語れる「場」に居たいということと、自分もそんな「場」を創ることに対して、力になりたいと思ったからかもしれません。マンガナイトではワークショップの運営と「日替わり推しマン」の執筆が中心ですが、何でもやります。お気軽にご連絡下さい。

あの山越えて

タイトル通り、「あの山」を越えて、結婚相手とともに都会から田舎に移り住んだ女性を中心に、日常生活を描く物語。結婚相手は農業をしつつ女性自身は地域の学校で先生として働きます。想像を超えることをしてくる生徒、気むずかしい上司、長男をひいきする義母によけいな口出しをしてくる困った親戚ーー人間が生きている間に出会うであろう身近な人間関係とそれに向き合う心構えが全部詰まっている作品。人間関係のもやもやに悩んだときのお供に。

文=bookish
1981年生まれ。「ドラえもん」「ブラック・ジャック」から「週刊少年ジャンプ」へと順当なまんが道を邁進。途中で「りぼん」「なかよし」「マーガレット」も加わりました。主食はいまでも少年マンガですが、おもしろければどんなジャンルも読むので常におもしろい作品を募集。歴史や壮大な物語をベースにしたマンガが好み。マンガ評論を勉強中。マンガナイト内では「STUDIOVOICE」のコラムなど書き物担当になっています。マンガ以外の趣味は、読書に舞台鑑賞。最近はサイクリングも。

DRAGON QUEST―ダイの大冒険

LINEマンガの1~3巻の無料公開につられてゴールデンウィーク間に再読しました。一時代を築いたRPG「ドラゴンクエスト」のコミカライズ作品のひとつです。勇者を目指す少年・ダイが、冒険の中で仲間を得て成長していく物語ですが、大人になった今は最初から冒険をともにする魔法使い・ポップの成長に目がいってしまいます。(初めて読んだときはどうだったのか覚えていません)先天的に超人的な力を持っていたダイや戦いのエリートともいえる仲間に対し、ごくごく普通の家の出身のポップ。挫折や悩み、そして逃げ出したいという思いで揺れる姿は、読者の大多数である「普通の人」と変わらず。だからこそ彼の成長とすごい仲間に肩を並べようとしてやり遂げる姿に涙します。見事な「一般人への賛歌」となった作品は、疲れて立ち止まりそうになったときに、ぜひ一読を。

文=bookish
1981年生まれ。「ドラえもん」「ブラック・ジャック」から「週刊少年ジャンプ」へと順当なまんが道を邁進。途中で「りぼん」「なかよし」「マーガレット」も加わりました。主食はいまでも少年マンガですが、おもしろければどんなジャンルも読むので常におもしろい作品を募集。歴史や壮大な物語をベースにしたマンガが好み。マンガ評論を勉強中。マンガナイト内では「STUDIOVOICE」のコラムなど書き物担当になっています。マンガ以外の趣味は、読書に舞台鑑賞。最近はサイクリングも。

プリンセスメゾン

WEBマンガサイト「やわらかスピリッツ」で連載中の「住まい」をテーマにした漫画。主人公は一人で持ち家を探す沼ちゃんこと沼越さん。年収250万ちょい、居酒屋の正社員で25歳。無理だと言われてもあきらめず、一生懸命物件を探し続けるその姿に、不動産で働く人々も心を動かされていきます。ともすると俗っぽくなりそうな話なのですが、池辺葵独特のフィルターがかかり、やわらかく少しものがなしい雰囲気の作品になっています。この作品や「東京タラレバ娘」で、「オリンピックを控えた東京」という言葉が出てくるようになりました。「その時、あなたはどう過ごしているのか?」この問いをつきつける漫画は、今後もしばらく続く気がしています。

文=kuu
マンガナイトではイベントのお手伝いと、執筆ちらほら。90年前後のなかよし、りぼんなどの影響をやや強く受けてますが、いろいろ読みます。好きな漫画家は、羽海野チカ、佐原ミズ。展覧会と舞台、可愛くて面白いものに心惹かれます。お茶とおいしいものにも。

コミック 文体練習

あるシチュエーションを99通りの方法で書いたフランスの実験小説「文体練習」にインスパイアされた実験マンガ。見開き1テーマでどこからでも読める。「新聞マンガ風」「回想風」「水平のコマ割で」「日本マンガ風」「実写で」…など、律儀に99種類のバリエーションが達成されている。気が向いた時にパラパラ見て、「こんなマンガあるんだよ!」と友だちに話すのが正しい楽しみ方と思われる。

文=本多正徳
1980年、広島生まれ。専門出版社勤務。マンガナイトではすっかりイジラれ担当になってしまった最近(!?)。男子校の寮でマンガの面白さに目覚めました。好きなジャンルはガロ系とヘタウマ系。藤子不二雄やつげ義春、水木しげるなどの古典的ナンバーも得意。心のマンガは『ダンドリくん(泉昌之)』『サルでも描けるまんが教室(相原コージ、竹熊健太郎)』でしょうか… ほかの趣味は読書、囲碁・将棋と悲しいほどのインドア派。ウェブサイト/グッズ制作を担当。