本好きなら一度は挑戦する折口信夫氏の『死者の書』。これを『五色の舟』などで知られるマンガ家、近藤ようこ氏がコミック化した。折口氏の世界をマンガで垣間見ることができるありがたさはもちろん、近藤氏の線の力によって、現世とあの世の境界にいるものに対する畏怖の念をより強く感じられるようになっている。
舞台は、孝謙天皇の時代。仏の教えに魅せられた貴族の娘と、その娘を、死してなお恋い求める元皇子を中心に、現世とあの世の境目で揺れる人々の姿が描かれる。読者は、彼らがどこへいくのか、と常に不安を感じながら読まざるをえない。
原作に比べて言葉が省略されたマンガでありながら、この境界線上の世界を読者が感じられるのは、近藤氏の線の力によるところが大きい。近藤氏の手書きとみられるゆったりした線や、ホワイトインクで描かれる擬音語「した した」などの表現手法が幻想世界のイメージ化にぴったりと当てはまる。読み進めるにつれて、どこからともなく「こう」「こう」という音が頭の中に響き、読者は死者と生者が交わるぎりぎりの世界を感じることができる。
投稿日: 2016年3月24日
文=bookish
1981年生まれ。「ドラえもん」「ブラック・ジャック」から「週刊少年ジャンプ」へと順当なまんが道を邁進。途中で「りぼん」「なかよし」「マーガレット」も加わりました。主食はいまでも少年マンガですが、おもしろければどんなジャンルも読むので常におもしろい作品を募集。歴史や壮大な物語をベースにしたマンガが好み。マンガ評論を勉強中。マンガナイト内では「STUDIOVOICE」のコラムなど書き物担当になっています。マンガ以外の趣味は、読書に舞台鑑賞。最近はサイクリングも。