マンガと人をつなぐ――そんなコンセプトでマンガナイトを始めて、今年で5周年。仲間うちで始めた読書会に徐々に多くの人が参加してくれるようになり、5年のうちに活動の幅がずいぶん広がってきました。ずっと心がけてきたことは、「マンガ好きなら参加したい、ほかではなかなかやっていない新しいことを」。これからも挑戦は続きます。
マンガナイトのはじまり
マンガナイトは、小さな読書会からスタートしました。もともと僕自身マンガが好きで、「マンガに関するイベントをやりたい」とずっと思っていました。何人かの友人に「マンガについて語れるイベントがあれば参加したい」と後押しされ、試しに仲間うちでやってみることにしました。最初の会場はメンバーの個人宅。岩明均さんの『寄生獣』と二ノ宮和子さんの『GREEN』を課題本にして、1990年代のエコブームについて再考するというもの。今から考えるとちょっとお堅いテーマでしたが、参加者には意外に好評。社会人になって、マンガについて熱く話せる場所がなかったからかもしれません。
マンガ好きが集まれば、当然自分の好きな作品や、今のお薦め作品の話になります。「あそこに行けば、面白い作品に出会えるらしい」と伝わったのか、徐々に口コミで参加者が増加。個人宅には入りきらなくなったので、外のスペースを借りることになり、現在の定番イベント「読書会」がスタートしました。
マンガナイトの定番イベント<読書会>
読書会で一貫して重視しているのは、いかに参加者がその人にとって新しい作品に出会えるか、ということ。それは、それまで自分が知らなかった作品でもいいし、自分にはできなかったマンガへの見方でもいい。参加する人が、少しでも持ち帰ることのできるものがあって「参加してよかった」と思ってくれたら成功です。
読書会は定番イベントですが、毎回おなじテーマではつまらない。「テーマにあわせたお勧め作品を参加者に持ってきてもらい、みんなで回し読み」という基本は維持しつつも、リピーターも初めて参加する人も興味を持ってもらうためのテーマ決めに毎回知恵を絞ります。例えば2014年は「マンガマッピング」に挑戦しました。2013年に読んだお勧めマンガを持ち寄り、各ブースで軸を決めてマトリックスに落とし込む――2013年に読んだ作品なら出版年は問わないので、新旧作品が混ざり合う、カオスで魅力的なマンガマップが出来上がりました。
「カジュアルなオタク」が増えてきたことで、マンガはマーケットとしていろいろな人に意識され始め、マンガに関するイベントも増えてきています。ですが、主催者側からの一方的な情報発信スタイルのイベントが多く、マンガ好きが集まって、書店や出版社の枠を超えた話ができる場所は意外に少ないのではないかと思います。
マンガナイトの場合、メンバーやイベント参加者の好きなマンガのジャンルは本当に十人十色。イベントの懇親会でも、すごくマンガに詳しい人は、出版社や書店員、マンガナイトメンバーとなぜある作品が売れているのかを分析しているし、普段あまりマンガを読まない人は、最近人気のあるマンガや、自分の好みにあうマンガを勧めてもらっている――イベントの楽しみ方も十人十色です。
マンガとの出会いをアレンジする
読書会のほかにも、さまざまなマンガとの「出会い方」をアレンジする企画を実施してきました。例えば「マンガ書店員バトル」(2011年開催)。首都圏の書店で働く現役書店員(マンガ担当)の方々をお呼びして、POP講座や棚作りバトルを実施。さすがは書店員、あまり知られていない作品や、特定のテーマを取り上げたエピソードの載った単行本が登場し、バトルを見ていた参加者にはとても刺激になったようです。
その他にも、マンガとの出会い方の提案の直接的な例として、マンガ本棚の選書があります。バックグラウンドも好きなマンガも全然違うマンガナイトのメンバーが、本棚の置かれる場所のコンセプトに合わせて「これぞ」という作品を選びます。現在は、東京・下北沢の個性派書店「本屋B&B」や東京都立川市にある「立川まんがぱーく」などに設置中。選書だけにとどまらず、「本屋B&B」では、「SFマンガナイト」というトークイベントを開催。第一線の科学者のお薦めマンガを本棚に並べ、マンガを選んだ科学者をお招きし、キャリアのスタートに、マンガがどう影響したのかを熱く語っていただきました。
さらに、「立川まんがぱーく」では、来場する子どもたち向けにマンガ絵の描き方を学ぶワークショップや、マンガが好きな子どもたちの夏休みの自由研究になるような、「マンガかるた」の作り方教室を開催。作品そのものだけではなく、マンガという文化全体をもっと知って、楽しんでもらうようなマンガとの「出会い方」を今後も生み出していきたいと思っています。
イベント参加者から企画メンバーに
最初はマンガと人がつながればと思っていましたが、活動をしていく中で徐々に人と人がつながるようになってきました。「好きなもの」という共通点があると、距離が縮まるスピードがまったく違います。
実は、マンガナイトのメンバーほとんどは、元々イベントの参加者だった人たち。メンバーは平日は仕事をしつつ、企画ベースで参画したい案件に手を挙げ、時間を見つけてイベントなどの準備をしています。
また、メンバーそれぞれの関心事や得意分野を生かして、マンガを通じてできることが広がっていくのが、マンガナイトの特長です。たとえば、2011年に東日本大震災の復興支援で行った「マンガ直行便」は、あるメンバーの発案がきっかけでした。被災地でほっとできる一瞬をもたらしてくれるような、安心して読めるマンガをトラック1台分あつめ、気仙沼の避難所へ送り届けました。その他にも、現役書店員や多くのマンガを読んでいるメンバーが手腕を発揮している「選書」や、ライターをやっているメンバーによる外部メディアでのレポートや書評の掲載など、それぞれがマンガという分野で、自分の強みを生かして活躍しています。メンバー自身が「面白かった」「得るものがあった」と思ってこそ、マンガナイトの活動が続いていくのだと思います。
常におもしろく、新しいことを
「マンガ好き」も実は多種多彩。単行本が好きなのか、雑誌が好きなのか。マンガを読むのが好きなのか、マンガについて話をするのが好きなのか。特定の作品やマンガ家が好きなのか、どんどん新しい作品を知るのが好きなのか。マンガという大きな市場の中で、それぞれの「マンガ好き」がのめり込めることは実は小さなテーマなのです。マンガナイトではいろいろな人の知恵を借りて、小粒でも心の底からマンガ好きが楽しめるイベントをこれからもどんどんやっていきます。マンガにあまり縁がなかった人にも、もっとマンガの魅力を知ってほしいし、親子や友達同士が、マンガを通じてもっと関係を深めてくれるとうれしい。マンガナイトがその手助けをできればと考えています。
マンガと人をつなぎ、結果として人と人がつながるーこのコンセプトは今後も変わりませんが、同じことをやっていては成長がない。
マンガナイトはこれからも新しいことに挑戦していきます。
(山内康裕)
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