「ジャケ買い」とは、内容ではなくパッケージ(マンガの場合は「表紙」)に惹かれて、物を買うことを言います。ジャケ=ジャケット(≒表紙)の意味です。数ある書籍の中でも、マンガほど自由度が高く、創造性を発揮できる「表紙」をもつものはないのではないでしょうか。
というわけで、今回は、「表紙」に着目して、特に魅力のあるマンガを選んでみました。(もちろん、内容もお墨付きです!)改めてみると本当に様々な表現がありますね。表紙をみるだけで内容を想像してワクワクしてしまうようなものもあれば、マンガ家・出版社等の想いを反映したものもあれば、はたまた、マーケティング戦略のひとつとして重要な役割を果たしていたりと、表紙から今の日本のマンガ文化そのものが透けて見えるようです。
みなさんもこれを参考に、本屋でマンガの「ジャケ買い」をしてみてはいかがでしょうか。
『もやしもん』(石川雅之)
テレビドラマやアニメ化されるなど、今でこそ国民的な認知度を誇る本作も、第1巻発売時には知る人ぞ知る存在だった。ただ、他の作品とは一線を画す立ち位置であることは、書店に並べられた単行本の装丁からも感じられた。 タイトルよりもまず目に入ってくるのは、帯に書かれた、大豆インクを使ってプリントされている事と、古紙100%再生紙を使用している事を伝える文言。作品のあらすじやアオリではないのだ。だが、これは本作のフィールドである「農業」が綺麗な作物や加工品をつくる事を目的とするのではなく、安全で、安心で、そして結果的に美味しい食品を提供する事を第一に掲げていることとピッタリ重なる。 「装丁は書籍の顔だ」と言われる中で、過度に化粧させず、作品の性格を伝えようとする誠実なデザインがここにはあるのだ。(いけだこういち)
『う』(ラズウェル細木)
たった一文字のタイトルに、「うな丼」のアップを描いたカット。帯にある「鰻(まん)画」の文字が全てを物語るように、世にも珍しい「ウナギだけ」を扱った作品だ。1巻完結予定でスタートしたが、関東・関西の違いや、中華、フランス、イタリア料理での食べ方、すき焼きや燻製などの調理法と多岐に渡った結果、第4巻(99話)まで続いた。「諸国“鰻”遊」「やる気“鰻鰻”」など、雑誌掲載時の欄外に掲載していた文字も単行本に収録し、隅々までウナギ尽くしとなっている。今回、表紙を紹介した第2巻は内容も脂がのっていて、コラムには「土用の丑の日」考案で有名な平賀(源内)家の7代目当主、平賀一善氏や、苗字が「鰻」さんも登場。資源の枯渇が不安視されるウナギを、より深く味わうために読んでおきたい。(旨井旬一)
『暗殺教室』(松井優征)
各巻の表紙の原則は、単色カラー+主要キャラクター主要キャラクターの「殺せんせー」の顔というシンプルなもの。第1巻は黄色からスタート。第5巻の白色や第9巻のチョコレート色など、あまり単行本の表紙には使われない色も使う。作者のコメントなどをみると、微妙な色の調整や殺せんせーの顔の配置など、非常に考えられたデザインのようだ。実際書店では、淡い色合いや人物画が多い中で、単色デザインは逆に目立つ。「あえて説明せず」という戦略の裏には、作品への自信、強気の姿勢が感じられる。すでにヒット作を持つマンガ家による発行部数の多い少年誌での連載作品であり、インパクトのあるタイトル。再度単行本の表紙で内容を説明する必要はないと考えたのではないだろうか。学校という閉じられた空間のなかで、殺せんせーの「暗殺」を通じた中学生の成長譚を描く少年誌らしいストーリー。落ちこぼれだった生徒たちが、少しずつ自信をつけていく展開は、読者に勇気を与える。そんな話の展開とあわせて、どこまで「単色表紙」を貫けるか、気になるところだ。(bookish)
『秘密―トップ・シークレット』(清水玲子)
近未来の日本を舞台に、生前の脳が見た映像を再現する「MRIスキャナー」を使った捜査で、難事件を解明していく。その特権を与えられた科警研の苦闘を描いている作品である。第1巻では、単色の背景に、男性とも女性とも取れる薪(まき)の中性的な顔を挟んで「秘密」という文字が配置されており、そのシンプルで大胆な構図は、人間味が感じられないほど丹精で美しい顔を一層引き立て、見る者の目を奪う。 冷たいような何かを諦観しているかのような視線の先に、これから始まる膨大な、重大な秘密を予感させてくれる。 また、表紙を開くと一枚のトレーシングペーパーが遊び紙として挟まれており、その次のページの中表紙が薄く透ける仕様になっている。その絵の美しさにも息を飲むので、是非手に取ってもらいたい。(ヤマダナナコ)
『あめのちはれ』(びっけ)
雨の中で佇んでいる制服姿の男子女子。白い背景と青くにじんだ彩色が瑞々しさを感じさせる装丁である。「あめのちはれ」は男子校と隣接する女子高を舞台にした、ファンタジックな学園ストーリーである。物語の根幹となる大きな設定は少女漫画らしくふんわりまとめられているが、時折出てくる生活風景や細部の描写にはリアリティが感じられる。コミックスは1巻ずつテーマカラーが異なっており、次巻はどの色になるか当ててみるのも楽しい。これから来る雨の季節に、部屋の中で学生生活を思い出しながら読んでみてほしい。(Kuu)