主人公の伊賀(23)は就活を戦線離脱してレンタルビデオ店でアルバイト中。同じ職場の女性・白川(24)が気になり始める。しかし白川は、伊賀のアルバイト仲間内で「あいつはないわ(=恋愛対象の圏外)」とされている女性。伊賀は仲間に評価されないという理由で声をかけられず、伊賀は「ケンガイみたいな扱いを受けるのはよくないことだからきちんと話し合って解決しよう」と白川に働き掛ける。
しかし白川はバイト仲間からの評価を気にしない。さらに考えを押し付けてくる伊賀の接触を遮断しようとする。そして「ケンガイな白川に構うと下の立場になるからやめなよ」という同調圧力をかけてくるバイト仲間ーーそれぞれが己の「人間関係の作り方」「コミュニケーションのやり方」が正しいと考えており、溝が埋まる気配は見えない。
話しあったり気持ちを伝え続けたり、「努力すれば気持ちが通じる」というマンガが多い中、『ケンガイ』には本当に分かり合えない人も世の中にはいるかもしれないと思わせるところが肝だ。
これを読者がリアルに感じるのは、特に20代がこの「分かり合えない」現実に直面しているからだ。SNSを通じて日常や交友関係が丸見えになり、「この人はこういう人」というイメージが勝手に形成される。「自分は他人からどうみえているのだろうか」と意識する人も増えている。その中に、どう見られようが気にしない人、「常識」を重んじる人が交じり合う。コミュニケーションツールの増加で、表面的には人間関係を築いているようにみえて、本質的には溝があるーーこのような状況を日々実感するのが今の若者なのだ。
世代、性別、生活環境などの違いで価値観が理解できない人が交じり合う状況は変わらない。その中で、隣にいる理解できない人たちの人間関係の着地点はあるのだろうか。
(kukurer)