3月29日に発売された単行本第1集は、発売からわずか5日で重版が決定。
さまざまなニュースサイトで取り上げられるなどメディアからもプッシュされている、今注目の作品だ。
そして、出版社や書店の動きが細かに描かれているが、“読者の動き”をどう描くか、それが現実に対してどう響くかが、非常に楽しみな作品でもあるのだ。
いまこの作品から目が離せない理由が2つある。1つめは、『働きマン』や『編集王』にはなかった、ネットなどソーシャルメディアを使った”拡散者の拡大”を実現したこと、2つめは、今後これから読者をどのように物語に取り込んでいくかである。
『重版出来!』は同業者なら、全く同じ体験をしていなくても共感できる「あるあるネタ」がいくつも仕込まれている。
営業と編集の部数の駆け引き、不規則な生活による親からの小言など、「あるある」を細やかにストーリーに取り込み、編集、営業、書店員どの位置に立っていても楽しめる内容だ。
このマンガを描くにあたって入念に取材をしているのが作品からよくわかる。だからこそ、同業者ならどの立ち位置であっても思わず肩入れしたくなるのだ。
ひと昔なら、同業を取り込んだところで、口コミで「いい」と広がるしかなかったが、現代ならばソーシャルメディアを使って大勢に拡散することができる。
拡散された情報を見た人が、さらなる拡散者に変化し、波状の輪のように広がっていく。
特に書店員を取り入れたことで、書店の棚でのプッシュ度合いも上がり、売上げに対する効果は大きかったはずだ。
マンガ/ソーシャルメディア/書店員の盛り上がり方はとても興味深い。
発売後は書店員たちが、店での売上げがどのような状態か、店舗にある残りの冊数はどれほどか……これをリアルタイムにTwitterで発信してくれたおかげで、このマンガの勢いをありありと知ることができた。
出版といえば「小説家(先生)」がいて、「編集者」という秘書のような存在が寄り添う、といったイメージが一般にはあったように思えるが、今はそれも昔のこと。
『重版出来!』によってマンガの中でもリアルでも、営業、流通、書店員、デザイナーといったさまざまな存在が改めて浮き彫りになった。
出版業界で働く者を題材にしたマンガはいくつかあるが、最も知られているのは先述の通り『働きマン』と『編集王』だろう。
週刊誌の女性記者をテーマとした『働きマン』では、事件を追う一人のジャーナリストとしての自分/女としての自分の間で揺れ動く姿を描いたりと、単純に記者ではない部分を描き出し、働く女性からの共感を集めた。『編集王』は漫画の世界どのような葛藤や人間関係があるか……という、業界の裏側と一人の働く男としての姿、夢破れた男の再生を熱量をもって描き出したことで、同業者だけでなく一般読者(主にサラリーマン)にも響いた。
この、「同業者だけでなく一般読者にも響く」を、『重版出来!』は今後いかに実現させるのだろうか。
現在発売されている1巻までを読めば、編集者/営業/書店員/作家/アシスタントなど「作り手側」の視点は多角的に出てくる。これを読んだ読者は普段知り得ない業界の裏側を読む楽しさは味わえるが、ソーシャルメディアで出版関係者が盛り上がっているほどの共感はもてていないのではないだろうか。
何をもってして、現在盛り上がっている層と同じところに読者を引っ張ってくるか……これは今後、非常に期待すべきポイントだろう。
もしも、巧みに読者を取り込み、出版関係者と読者が同じテンションをもってこの作品について盛り上がりをみせることができれば、今後の職業マンガや出版業界を描いたマンガに影響を与える、歴史にみる発明品のような、珠玉の一作になるのではと思う。
参考サイト
スピネット/SPINET