主人公の狩野千晴(チハル、小学5年生)は母の残した「誰よりも遠くへ」という言葉をたよりに都会から沖縄本島より南西約500㎞の羽照那島へやってくる。いきなり遭遇するマンタライド(巨大マンタに乗って海を泳ぐ!)、島時間、ヤギの屠殺など、カルチャーギャップに驚かされてばかりだが、子どもらしい柔軟性で徐々に島に馴染んでいく。とっつきにくいが、素直な性格の同級生である島人、我那覇竜胆を偶然助けたことで、チハルは彼に気に入られ、以後行動を共にするようになる。
羽照那島は沖縄本島とは異なる独立した文化をもっており、伝説、神話、禁忌などが多く現存する場所だが、チハルはそういった未知との遭遇に対する時、都会の少年よろしくスマートフォンを使いインターネット検索をするのだった。
しかし、島の伝説の「翼竜の化石」を探そうとする時に、チハルは自分のやり方の間違いに気づかされる。珊瑚礁が隆起してできた島なのだから、化石は存在しないという結論を出したチハルに、担任教諭は独自の研究成果によって隆起珊瑚礁の下に(化石が存在しうる)堆積岩の地層があることを教える。インターネットに仮託した知識を覆され、チハルは自らの「好奇心の壁」を意識するようになる。
さらにチハルが島の伝統的祭祀や同世代の巫女に触れることで、ニライカナイ究明へと物語の深度が増していく。
ニライカナイとは沖縄、奄美群島各地に伝わる他界概念で、「遥か海の東の彼方」「海の底」という理想郷や死後の世界を指す。「浦島太郎が助けた亀に乗って竜宮城を訪れる」という有名な昔話もニライカナイの概念に近似している。
本作は“青春離島暮らし”といういかにもマンガらしいパッケージングだが、民俗学やSFをちりばめ、深く読み込ませる要素をいくつも交錯させている。9月時点ではまだ1巻が出たばかりだが、今後の物語の展開は大いに期待できる。ニライカナイや離島の古代信仰などを調べて作品に臨めば、何度でも読み返すことになることは間違いない。