「ネガティブ女子」が登場するのは葉月かなえ作の『好きっていいなよ。』だ。「月刊デザート」に連載中で、今秋にはアニメ化される。
話は非常にシンプルで友人も恋人もおらず、根暗でおとなしい主人公、橘めいが学校で人気の男の子と偶然出会い、紆余曲折を経て付き合い始めるというもの。かわいくて男の子に人気のあるライバルとの対決や、女の子との友情物語を途中に盛り込みながら主人公も成長していく。
7月号では『好きっていいなよ。』の主人公が表紙を飾っていることから一定の人気があると見て良さそうだ。「別冊マーガレット」で連載中の『君に届け』の黒沼爽子もこの系列に入るだろう。
かつて少女マンガの主人公は、「明るくて友人が多く、人付き合いが上手な子」が多かった。『キャンディ・キャンディ』のキャンディから始まり、『姫ちゃんのリボン』の野々原姫子や『ときめきトゥナイト』の江藤蘭世。彼女らは、かわいらしくて皆から愛され、元気な子。どちらかというとスポーツが得意で勉強は苦手だった。それが今は、これらの作品に主人公の友人役として出てきそうなタイプの女の子が主人公になりつつある。『好きっていいなよ。』の橘めいは一人でいるのが好きという設定。「月刊デザート」で連載中の『となりの怪物くん』の主人公、雫は無愛想で人付き合いが苦手、得意なのは勉強とされている。
ここにはターゲットとなる年齢層とマンガとのかかわり方の変化があるように思える。
講談社のホームページによると、「月刊デザート」は10〜20代向けとされている。「別冊マーガレット」も中学生から高校生のティーン向けだ。マンガ研究で知られる石子順造氏は「マンガ/キッチュ」のなかで「マンガとは読者との関わり合いが強いメディア」と指摘している。かつてはこの主な読者層の女の子たちに対して、マンガを通じて「明るく元気に、人に好かれる子になりなさい」というメッセージが強く発せられていたのが、今は現実にいる等身大の女の子の姿をすくい取り、読者がより共感しやすい主人公としているのではないだろうか。読者からすると、「明るく元気な女の子」は目標にはできても共感はできなかっただろう。『好きっていいなよ。』などを読んだ30代の筆者も「中学・高校生のときにこんな恋愛や学校生活をしたかった」と思ったものだ。
確かに物語展開は、シンデレラ・コンプレックスを感じさせられる。だが『世界のシンデレラ物語』によると、グリム童話のシンデレラやその類型となるおとぎ話において、主人公のシンデレラは、自分から男女の出会いや世界への参加を求めて家から飛び出し、舞踏会や村の祭りなどに参加していくという。 特に西洋文化の影響が強い地域ではこの特徴が強いという。日本のシンデレラ物語では極度に待ちの姿勢が強調されるが、世界のシンデレラ物語では必ずしも受け身ではないのだ。
これは『好きっていいなよ。』などマンガでも共通している。マンガをよく読むと主人公らは重要なポイントで自分から友人や恋する相手に飛び込んでいく。現代の少女マンガは、おとなしい女の子を等身大で受け入れつつも、重要な場面では自分から踏み出すことの重要性を訴えているのだ。