マンガ似顔絵ワークショップ(16:00〜18:00)

533658_548122961914331_1412368732_n954327_549762045083756_1644428762_n2013年8月3日(土),4日(日)にルミネ立川屋上庭園コトリエで開催されるイベント「あおぞらガーデン」に出展します。
漫画家さんと参加者の皆さんが一緒に似顔絵マンガを完成させる「マンガ似顔絵ワークショップ」を行います。
参加者のみなさんには、漫画家さんに似顔絵を描いてもらっているあいだに、マンガの効果音やセリフを簡単に作ってもらい、マンガの一ページを完成させます。

似顔絵は、漫画家 戸城イチロさんに描いていただきます。

開催概要

場所
ルミネ立川屋上庭園コトリエ
※イベント会場となる屋上庭園コトリエへは東側(東京方面)のエレベーターでお越しください
日程
2013年8月4日(日)
時間
16:00~18:00
参加費
1,200円

※先着順

所要時間
5分程度

今あなたが知るべき漫画家・田中相とは、誰なのか

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“これからの日本の漫画家”といえば誰だろう?それは、気鋭の漫画家のひとり・田中相。2010年3月に創刊された講談社の「ITAN」(隔月誌)で鮮烈なデビューを果たした若手漫画家だ。2011年7月に短篇集『地上はポケットの中の庭』を発売し、現在は『千年万年りんごの子』をITANに連載している。そして、平成24年度 第16回文化庁メディア芸術祭では『千年万年りんごの子』がマンガ部門新人賞を受賞。その圧倒的な画力も紡がれる物語も、全てにおいて注目の漫画家なのだ。

この記事では、インタビューを通して田中相とは一体どのような人物なのかを明らかにしていく。

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『千年万年りんごの子』1巻、2巻

ずっと「マンガは描けない」と思っていた

漫画家になろうと思ったきっかけは?

母と伯母がマンガ好きで、水野英子さん、山本鈴美香さんや和田慎二さんなどの少女漫画がたくさん本棚に並んでいました。子どもの頃からマンガが身近な存在で私も大好きでした。小さい頃は漫画家になりたいなと考えていたんですが、真似事をするうちに「自分では無理そうだ」と思うようになって。高校の時には既に「漫画家になりたい」とは考えなくなっていました。もちろん、ずっと憧れはありました。

意外ですね。なぜ?

私には姉が一人おりまして、高校生だった姉は清水玲子さんが大好きで絵をそっくりに描けるほどで。それが本当に上手で「私はできない」と思っていました。マンガの形式にしてもコマを割り始めたものの完成させることができず、という感じで。よくあるタイプかな?(笑)「見る」と「やる」とでは大違いですね。だから、通っていた高校のデザイン科を卒業したらそのまま就職して働こうと思っていたんです。でも、結局は美大を選びました。

ai-tanaka3小学生の頃は『ドラゴンボール』の神龍を描くのが得意で、クラスの男子に頼まれることも多かったという田中さん。

そこからどうして美大へ?

ちょっと時間の猶予が欲しくて……親には申し訳ないのですがモラトリアムというか(笑)。短大でいいから美大へ行こうと画塾へ通いましたが、そこから大きく変化したと思います。この画塾の先生にはすごく影響を受けましたね。そして先生から「美大へ行かなくとも絵はかける、それでも受験するなら4年制の大学を目指してみては」とアドバイスをいただいて、その先生の母校を目標にすることにしました。

どんな先生だったのでしょうか。

お恥ずかしながら当時は「自分は絵がうまい」なんて考えていたんですよ(笑)。でも画塾でデッサンの講評会をした時にその自信が崩れ落ちました。その後は、素直に自分は下手なんだと自覚できているので大変ありがたかったです。印象に残っているのが「田中は途中であきらめている。もっと観察して、最後まで描き上げることができたはず」と言われたこと。自分は終わったと思っていても「もっと見ろ!」と言われるんです。もう描く所なんて無いと思うのに、さらに見て描く。しがみつくというか、粘りみたいなものを勉強させてもらいました。

そして、その先生は「大学受験の後のこと」についていつも話していました。画塾は受験で受かるための勉強だけをするイメージですが、精神的な部分も含めて、続けていくための考え方も先生から学びました。

初めてマンガを描いたのは同人誌

美大を卒業してからはどうしていましたか?

今はもう辞めてしまいましたが、デザイン業務やイラストを描きながら10年くらい働いていました。働いている当時、私が大のマンガ好きと知っている友人に「マンガ、描いてみないの?」と言われていましたが、なんとなくそのまま過ぎていました。でも、同人誌を出している友人と一緒ならページ数も少なくて済むし、責任感が生まれてやる気になるかも! と思い立って最初の同人誌をコミティア(オリジナルジャンル限定の同人誌即売会)に出してみたんです。これが初めて描いたマンガですね。

最初の同人誌を作ってみて、いかがでしたか?

「いいものが出来た!」というわけでもなく「ああ、終わったな」という感じです。手探りで描いてみて、コミティアに来た人が買ってくれるのがすごく嬉しかったです。そこで、のちにお世話になることになるITANの編集さんに声をかけていただきました。

ai-tanaka4同人誌「mabatakihasorekara」

ai-tanaka5別の同人誌の中には自画像の原型も。この時はこのマンガのためのキャラクターだった。

そこが商業誌デビューのきっかけだったんですね。

その時は名刺をいただいただけで何も進展はありませんでしたが、2009年11月に出した二冊目の同人誌「mabatakihasorekara」を同じ編集さんが買っていかれたんです。帰り際に「これをスーパーキャラクターコミック大賞に出していい?」と聞かれて、私も軽いノリで「どうぞー」と答えたら、ある日「大賞です!」という電話がきて……その時はよく意味がわかりませんでしたね(笑)

コミティアや同人誌のつながりは、今もすごく大切なお友達だとか。

はい。今は隔月連載で余裕が無く同人誌は出せていませんが、続けている友人はいるのでコミティアが開催されるとみんなに会いに行っています。本当に元気をもらえますね。私の他に商業誌デビューした友人もいますし、元々プロだった方もいます。色々なつながりに支えてもらっています。

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ai-tanaka7『地上はポケットの中の庭』には、初の同人誌に掲載した処女作「5月の庭」も収録されている。

ai-tanaka8ITANの壱号にも掲載された「ファトマの第四庭園」。衣服の緻密な描き込みに魅了される/『地上はポケットの中の庭』より。

マンガは模索しながら描いている

田中先生の作品では、人物・自然・昆虫・動物から布の柄まで繊細に描かれています。それは画塾の先生の教えが生きているのでしょうか?

うーん、そうかも? 散漫に描くのではなく狙いを絞って、というのは言われたことですし意識しています。マンガは1ページで平面構成の要素もありますしね。モチーフが目の前にあれば詰めて描けますが、マンガはそこに無いものを描くことも多いので、それが大変かもしれません。

ai-tanaka9コミックスの装丁は全て本瀬智美によるデザイン。親しい友人ということもあり、装丁は相談してもらいつつ進めた。

子どもの時も、美大でも、大人になってからもマンガを描いていなかったとおっしゃっていましたが、1枚絵のイラストには無い“動き”も重視されるマンガをなぜ、ここまで素晴らしく描けるのでしょうか。

全然素晴らしくはないですよ、できてないことばかりです! まだまだ暗中模索しています……。私はコマが割ってあってその中にギュッと絵が入っているマンガの形態が好きなようです。色々試したり考えることはありますが、自分の好みでやっているだけかも。でも、読みやすく混乱させないコマ運びにはなるべく気をつけています。

描いていて楽しいものは?

木、花、蔦、特に楽しいのは手。手は描いていて楽しいです。手と髪の毛はフェティッシュに好きです。逆に苦手なのは建築物。パースペクティブがきちんとしていないと、傾いて見えちゃいますもんね。家など建物を描く時はアタリとなる3Dを簡単に作ってから、それを下書きにして描くこともあります。パースをとるのも、空間認識も昔から弱くてですね(苦笑)。

ai-tanaka10髪の毛も躍動感をもって描かれる/『千年万年りんごの子』1巻

ai-tanaka11手で表現される、重要なシーン/『千年万年りんごの子』2巻

普段のマンガの描き方について教えてください。

まずはA5のコピー用紙に1枚につき1ページとして鉛筆でネームを描いて、スキャンしたものを担当編集さんに送ってチェックしてもらっています。GOサインが出たら、スキャンした状態のネームを123%に拡大後、プリントアウトしてライトボックスの上で原稿用紙に写して青のシャープペンシルで下書き、それをペン入れしスキャン、最後にコミックスタジオ(マンガ制作ソフト)でトーンを貼り仕上げています。

ai-tanaka12田中さんは「本当は毎日9時間くらいは寝たい」と、かなりのロングスリーパーのようだ。好きな食べ物はチョコレート、嫌いな食べ物はバナナ。

最後に、PingMag読者に向けてメッセージをお願いします。

私は「たくさんの人に自分のマンガを読んで欲しい」と思っていて、これまでは女性読者が多いのかなと考えていました。でも、2013年5月に新宿で催して頂いた『千年万年りんごの子』のサイン会では性別を問わず、しかも若い方から年配の方まで、色々な方に来ていただけて本当に嬉しくて。もっともっと多くの方に自分の作品が届いたらいいなと思っています。

いずれ海外版を出すことができれば嬉しいですね。世界中の人に届いて欲しいです!

ありがとうございました!

ai-tanaka13今回のインタビューに際してオリジナルイラストを描いていただきました。
(AYAKA KAWAMATA)
協力:HAPON新宿 http://hapon.asia/shinjuku/

green drinks Tokyo「greenz.jp 7周年大感謝祭!」

2013年8月1日(木)19:30〜22:00開催のNPO法人グリーンズ主催イベント『green drinks Tokyo「greenz.jp 7周年大感謝祭!」』に、代表 山内康裕がゲスト出演します。
greenz.jpとコラボレーション連載中の「マンガ×ソーシャルデザイン」を振り返る予定です。

“イエ充”によるお取り寄せ――グルメマンガの今。

自分の家の中でのんびりくつろぐことを好む20代、30代ーーつまり「イエ好きでイエ充」が増えているという。

ネット環境の向上、ゲーム機、好きな番組が見放題のCS放送といった、室内で過ごすためのハードやソフトも年々クオリティが増しており、外に出なくても楽しく暮らすことができてしまう。「イエ充」はもはや止められない時代の流れであり、今後しばらくは続いていくと思われる。

この「イエ充」の空気を象徴するマンガが、今回取り上げる「おとりよせ王子 飯田好実」(「月刊コミックゼノン」連載中)である。本作は、主人公が週1回のノー残業デーに、毎回違うお取り寄せグルメを楽しむというストーリーだ。取り上げられる食品は、北は北海道の「松坂牛大とろフレーク」から南は佐賀県の「蔵出しめんたい」まで実に様々で、読者を飽きさせない。

コミックスは5月20日に第3巻が発売されており、既に累計25万部を突破している。

また連続ドラマ(メ~テレ、ひかりTV、tvkにて放送中)がこの4月より放映され、注目を集めてきた。飯田好実名義のツイッターアカウントのフォロー数は、番組効果もあり現在1万越えとなっている人気ぶりだ。今年の4月4日から10日にかけては、主人公の住んでいる(とされる)吉祥寺の東急百貨店で、物産展とコラボレーションしたイベントが開催され、こちらも盛況だったようである。

「おとりよせ王子」こと飯田好実は独身で一人暮らし、彼女なしの26歳SE男子である。普段は仕事で忙しいが、毎週水曜日のお取り寄せデーと休日はほとんど家にいる「イエ充」だ。彼のお取り寄せ時のテンションの高さと、職場で黙々と仕事をこなす様とのギャップはこの作品の面白さの一つである。

なぜ、この「おとりよせ王子 飯田好実」が今の時代の雰囲気に合っており、多くの人を引き付けるのだろうか。それは、この作品がグルメ描写と共に若者のリアルな生態を丁寧に描いているからだと考えられる。

彼は、ソーシャルメディアを「家の中で人とつながるツール」として効果的に使用して充実した生活を楽しんでいる。飯田の世代は「プレッシャー世代」(1982年~1987年生まれ)と言われている。社会不況などのあらゆる外圧に耐えて育ち、その結果無駄なプレッシャーから逃れる術を身につけている世代とされ、このように命名された。

メールやSNSなどのコミュニケーションツールと共に成長してきた彼らは、人とつながることを強く意識しており、そのための通信費は惜しまない傾向にある。

飯田はお取り寄せの度に、その食べ物についてTwitterでつぶやくことを習慣にしている。そのセンスが光っていたため、彼のフォロワーは一般人としてはかなり多い。Twitterは人づきあいの苦手な飯田にとって、実生活では発揮できない才能を表す場所になっているのだ。

元来のお取り寄せのコミュニケーションとは、遠方からめったに食べられない食べ物を取り寄せ、誰かと分かち合って食べる、という形式である。しかしこの作品では、自分のためにお取り寄せをし、それを見知らぬ人達に披露するという形を取っている。

これはFacebookといったSNSに自分が食べた料理を写真とともにアップし続けることで、結果的に「実名グルメ口コミSNS」が形成される道程そのものであり、かつ現代における新たな「お取り寄せ」のカタチが描き表されていると言っていい。

飯田が美味しそうな料理の写真と詳細な感想を送った瞬間、フォロワーから続々と反応が届く。部屋の中から世界と、見知らぬ人とつながる奇跡と喜び。煩わしいことを回避し、それを享受することができる家の中は、実に籠りがいのある、居心地の良いシェルターなのかもしれない。

これからも様々なお取り寄せが登場し、読者の目を楽しませてくれるはずの『おとりよせ王子 飯田好実』。今後の展開における最大の関心事は、2巻で表出した「父親との確執」だろう。彼が実家を出た原因が親子の不仲にあることは十分考えられる。またお取り寄せによる「イエ充」ライフを始めた理由もそこにある可能性は高い。

今後、父親という彼にとって最大のプレッシャーとどう対峙していくのだろうか? これはそのまま、若者にもあてはめられるテーマではないのだろうか。イエという、己を守る場所から“外”に出る、あるいは“外”と対峙せねばならない時、どう考え行動していくのか。

飯田はすでに社会人として働いているが、そういう意味ではこのマンガは学生 対 社会という見方もできる。社会、親、大人として抱えなければならないプレッシャー……そういった通過儀礼をどう越えていくのか。居心地のいいイエ充ライフは、どうなるのだろうか。

この作品にはお取り寄せグルメやSNSとリアルでの自分といった、現代になって注目を浴びるようになった物事が描かれているが、根底のテーマはどの時代でも大切な「大人への成長」なのかもしれない。

(kuu)

関連サイト
飯田好実Twitter
イエ充って何?NAVERまとめ

「かくあるべし」に抗する判断とそれができる夫婦の関係

政府が導入しようとして問題になった「女性手帳」。女性の結婚、妊娠、子育て適齢期を意識させるよう提案されたが、「なぜ女性だけ」「人に管理される事柄ではない」と反発の声があがり頓挫することになった。

結婚、出産だけでなく、ワークスタイル、家族のあり方も多様化の一途をたどり、過去共有されてきた「○○かくあるべし」といったソフトロー(明文化されない共通の理想)は次第に通じなくなってきている。

第3巻で完結を迎えた米田達郎の『リーチマン』(講談社)は、ワークスタイルや家族形態の多様化という重いテーマを描きながらも痛快で心温まる作品である。主人公、達郎(英訳:リーチマン)はフィギュアの造形師になるべく会社を辞めた専業主夫。そんな達郎を支えるのは百貨店勤務で竹を割ったような性格の妻・トモエだ。

妻が稼ぎ夫を養うといった夫婦形態については様々な意見があるだろう。しかし、私がここで提出したいのは「男女分業かくあるべし」という議論ではない。反対に「かくあるべし」に抗する判断とそれができる関係についてだ。

例えば2人の結婚。会社を辞め国民健康保険料が払えない達郎。激痛の虫歯を抱えながらも歯医者に行くこともできない。そんな達郎の告白に、トモエは「ほんなら…、結婚するか」と応える。

世間で共有されてきたソフトローに照らせば、これはあまりに逸脱性(アノマリー)に富みすぎている。本来なら結婚のような人生における重大な判断はもっと熟考し、周囲に相談したうえで下すべきなのではないかと誰もが思うだろう。

達郎が会社を辞める際も、本来なら実績も計画も無い中で夢を追うのはリスクが高い。案の定、主夫になった後も彼の造形師としての評価は上がらず、苦悶の日々が続く。

だが、2人のアノマリーな判断が必ずしも読者をあきれさせるとは限らない。ソフトローに基づく「夫婦の姿」や「男女分業の姿」とはかけ離れていたとしても、この2人を見るとなぜか共感し、信頼感に心打たれる。

人間とロボットやコンピュータとの違いとは何だろうか。それは「感覚に基づいたダイナミックな判断ができること」だといわれている。もし、コンピュータが前述の結婚や退職に対して、何がより的確な判断かを求められたとしたらどう応えるだろうか――答えは明白だ。

このダイナミックな判断が生み出される原因は人間独特の「身体性」だという。一般的に、脳は身体を統括しており、身体は環境に対してセンサーとアクチュエータの働きをするにすぎないと考えられている。しかし、脳は自らが効率的に判断できるように情報を簡略(言語)化し処理しているに過ぎず、決してすべての情報を満遍なく処理し判断しているのではないという。

一方、身体は環境から膨大な情報を受け止めている。そしてそれは経験として身体に刻み込まれている。雰囲気やノリの察知、矛盾を孕む判断というのはそうした身体に残された情報をもとに行われるというのだ。

こうしたことは以前より指摘されてきた。坂口安吾がいう「われわれの生活は考えること、すなわち精神が主であるから、常に肉体を裏切り肉体を軽蔑することに馴れているが、精神はまた肉体に常に裏切られつつあることを忘れるべきではない」(『恋愛論』)とはまさに身体に基づく判断そのものだ。ただ安吾の時代にはマイノリティーだったソフトローからの感覚的な逸脱は今、決してそうとは言えない状況へと変わってきている。

以前は結婚も仕事もソフトローによる「あるべき姿」と照らし合わせ整合性をとることができた。

それはいわば、脳が処理可能な知識を基に下した距離感である。しかし物語の中で達郎やトモエが行う判断は「損してもやるべき」や「この人なら大丈夫」という感覚を重視して下される。

作中、トモエが帰宅すると「ただいま○○○」「おかえり○○○」と駄洒落で出迎える特徴的なシーンが、幾度となく展開される。これは周囲から見ればまったく意味を持たない遊戯でしかない。

しかし、夫婦にとってはお互いの状態を確認しあうために欠かせない約束事だ。のしかかるソフトローに抗する2人の小さな秘密というと大げさだろうか。

『リーチマン』は生活の多様化の中で懸命に生きる夫婦を通じ、他人に押し付けられるのではなく、自らがスタイルを作り上げていく健気さを実感させてくれる応援歌のような作品だ。私たちはソフトローに屈しない彼らの姿に同時代性を感じ、勇気づけられる。

ましてや達郎とトモエの間にある強くてしなやかな絆。ページをめくるごとに何気ないやりとりから深い愛情があふれ出してくる。そして2人の信頼関係の延長線上に読者は置かれる。いつの間にかヒーローでも美男美女でもない2人を家族のように応援してしまう。

そう、彼らと供に生き抜く感覚こそが本作品の魅力なのだ。

参考サイト
Webコミック「モアイ」

文=いけだこういち
1975年、東京生まれ。マンガナイト執筆班 兼 みちのく営業所長。好きなジャンルは少女マンガ。谷川史子、志村貴子作品をマイ国宝に指定している。日々、大蔵省(妻)の厳しい監査(在庫調整)を受けながらマンガを買い続ける研究者系ライター。どうぞごひいきに。