電子書籍を媒介に描かれる「SF=society fiction」

アマゾンの「Kindle」の浸透、楽天の「Kobo Touch」の発売、講談社の電子書籍強化——2011年から12年にかけて、現実社会で相次ぎ電子書籍の端末やコンテンツが発売されている。電車の中では文庫本や雑誌、新聞を読む人より、スマートフォンなど携帯端末を見る人のほうが多い。紙と電子端末という2種類のメディア形態が混在する出版文化や読書体験は今後どうなっていくのか。実はその未来を想像する一助はすでにマンガの中に登場している。

そのひとつが現在「月刊IKKI」(小学館)で連載中の『BABEL』だ。

舞台は2050年の世界。あらゆる書籍が電子化され「ビブリオテック」という電子書籍のネットワークシステム、仮想都市に統合されている。世界中のコンテンツがひとつになることで、浮かび上がるデジタルならではの「不具合」。主人公の父親らは、それを隠された大いなる謎だと考え、読み解こうとする。成長した主人公も、志を継ぎ、「隠された意図」を解明しようとするが——。書物に隠された意図を読み解くという点では、イエス・キリストらの謎に迫る「死海文書の謎を解く」(講談社)や超古代文明についてノンフィクション『神々の指紋』(小学館)、絵画に隠されたダ・ヴィンチのメッセージを読み解く『ダ・ヴィンチ・コード』(角川書店)などミステリー作品を彷彿とさせる。

同時に興味深いのは、紙の本や電子書籍の描かれ方だ。学校では一人ずつ電子ペーパーを持ち、「読書」や勉強はすべてこれで行う。紙の本は「ペーパーバック」と呼ばれ、非常に高価でレトロなものとして描かれている。この点は、川原泉のSF作品『ブレーメンⅡ』(白泉社)と共通するところだ。電子書籍の普及開始を2000年代のはじめに設定するなど、現実の流れの少し先を「SF=”society” fiction」として、「こうなるのでは」という予測も含めて描いているように思える。

かつて子どもたちの夢を描いた『ドラえもん』や『ひみつのアッコちゃん』の秘密道具は、日本科学未来館で開催されている企画展「科学で体験するマンガ展」で最新の科学技術を使って表現された。「ビブリオテック」のようなネットワークシステムも、いつの日か現実になるかもしれない。その日のために、「このようになったら自分はどう思うか」を想像するために読んでも、考えさせられることがあるだろう。

またこの作品の特徴は出版形態にもある。2012年8月現在、雑誌で連載中だが、最初は書き下ろしの単行本で発売された。かつて戦後のマンガ市場が形成されつつあった時代、貸本屋の単行本で人気の出た作家の作品を、雑誌で連載するという動きがあった。これが才能を発掘し、連載マンガ家を育てる一手段となっていた。マンガ販売の主力が単行本中心になっている今、単行本で人気を計ってから連載するという方法は、再び新人育成の手法となる可能性がある。

文=bookish
1981年生まれ。「ドラえもん」「ブラック・ジャック」から「週刊少年ジャンプ」へと順当なまんが道を邁進。途中で「りぼん」「なかよし」「マーガレット」も加わりました。主食はいまでも少年マンガですが、おもしろければどんなジャンルも読むので常におもしろい作品を募集。歴史や壮大な物語をベースにしたマンガが好み。マンガ評論を勉強中。マンガナイト内では「STUDIOVOICE」のコラムなど書き物担当になっています。マンガ以外の趣味は、読書に舞台鑑賞。最近はサイクリングも。