深夜タクシー運転手と乗客をめぐる、巨匠の晩年作

元暴走族、今は無免許の深夜タクシー運転手をしている青年ミッドナイト(本名・三戸真也)が、乗客を中心とした人間ドラマに絡んでいく一話完結形式の短編連作。物語が進む中で触れられていく真也自身の生い立ちや、暴走族をやめるきっかけとなった少女マリのエピソード、ゲスト出演にとどまらない活躍を見せるブラック・ジャックの存在などが、ともすると地味になりそうな作品世界に彩りを添える。愛車(もちろん営業車を兼ねている)・エリカに搭載されたトンデモなギミックや、後半明らかになる真也の特殊能力など、ありがちな人情劇とは一線を画したユニークな設定も満載で、少年マンガらしい荒唐無稽さが楽しい。
巨匠の最晩年の作品であり、最後の週刊少年誌連載となった。衝撃的すぎるという理由で連載当時コミックス収録が見送られた最終回は、現在は文庫版で読むことができる。

文=鈴木史恵
1986年2月生まれ、千葉県出身。おもちゃメーカー勤務を経て編集・執筆業へ。マンガ好きとしての原点は物心つく以前から触れてきた手塚治虫と藤子・F・不二雄。24年組、80年代ニューウェーブ、ガロ系、それらの系譜にある青年マンガを中心に、面白そうなものは何でも読みます。マンガ以外の趣味は好きなバンドのライブや映画鑑賞など。