マンガナイトは2014年10月11日、5周年記念として3つのツアーを開催しました。そのひとつが、東京大学漫画調査班、通称「TMR」との座談会企画です。マンガナイト内のメンバーの「TMRの人と話がしたい」という一心で立ち上がったこのツアーもなんと満席。おすすめ漫画や2015年のヒット作を語る座談会に耳を傾けました。
ツアー参加者は11日13時、東京大学駒場キャンパス正門前に集合しました。この日の午前中開催された「書店バックヤードツアー」から合流した人もいました。
そして一路、TMRの部室へ。彼らの部室は駒場キャンパス内の学生会館3階にあります。
壁一面に本棚が並び、マンガ単行本がぎっしり。ツアー参加者からは「どのように単行本は並べているのか」などの質問も。マンガは探しやすいように出版社別に並んでいます。今はちょうど、年末発行予定の同人誌の企画として部員がランキングを作成中。そのランキングに使う作品は、別の棚に分けられていました。
部室においてあったTMR編集の同人誌のバックナンバーにも興味津々で、早速買えないか打診する人もいました。
座談会はマンガナイト側から3人、TMR側から5人が参加しました。司会はマンガナイトの岩崎由美さんです。
まずは自己紹介。名前とやっていることに加え、「10月に読んだマンガ」を発表です。それぞれの自己紹介は以下の通り。(敬称略)
マンガナイト | ||
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山内康裕 | マンガナイト代表 | 『ラブやん』 |
岩本貴子 | ライター | 『ワールドトリガー』などジャンプの新刊 |
太田和成 | 書店のコミック担当 | 『恋のシャレード』 |
TMR | ||
黒川 | 2014年度TMR代表 3年生 | 『きのう何食べた?』 |
福田 | 修士2年 | 『覚悟のススメ』 |
マロ(HN) | 文学部所属 | 『明日の君に花束を』 |
はち(HN) | 1年生 | 『みえるひと』 |
溝(HN) | 1年生 | 『親父の愛人と暮らす俺』 |
座談会は「そもそもTMRって?」というところから始まりました。
一般的に「大学のマンガ研究会」といえば、『げんしけん』などマンガの書き手の集まりを想像します。しかしTMRはあくまで「マンガを読む人」の集まり。そこで毎年4月の新入生の勧誘では『マンガを読むサークル』と勧誘するそうです。
しかし実体は同人誌作成が中心。年3~4冊つくり、コミックマーケットやコミケットなど同人誌即売会で販売しています。
同人誌の内容は、TMR内イベントのリポートのほか、作品のクロスレビューなどが中心。かなりのボリュームです。
現在メンバーは15人。うち1人は女性だそうです。
座談会では、TMRから出されたお題のひとつが「マンガ体験を共有するのに最適な方法とは?」というものでした。比較的マンガを読むことが多いTMR内でも、同じマンガについて語り合うことの難しさを実感しているとのこと。音楽やスポーツと比べて、リアルタイムの共有や楽しみ方が制限されている媒体と考えているからのようです。
マンガナイトはもともと、ライトなマンガ好きが気軽に参加して「このマンガおもしろかったよ」といえるイベントを開催してきました。
実は登壇した太田は、マンガナイトの主催イベントで、理想の雑誌を妄想して作るという企画に参加したことがあります。
このとき他の書店員も参加しており「自分と(趣味が)近いなという人が書店員で見つかった」(太田)といいます。ランキング企画も「コメントや『なぜこれを選んだのか』と裏を考えるのが楽しい」という太田さん。まずは、個人がそれぞれの作品についての思いをオープンにすることが、「共有する楽しみ」への第一歩かもしれません。
これほど多様化してしまったマンガカルチャーでは、かつてのように雑誌発売日の翌日、同じ作品について「これがよかった」と感動を共有するのは難しいのかもしれません。例えば野球で「昨日の巨人ー阪神戦はこの選手がよかった」「この選手のプレーはすごかった」とか話すように、マンガで話すとすれば、あらかじめ課題図書を決めるもしくは、ある特定のジャンルが好きな人たちのコミュニティーに所属するしかないのかも?
共有に関する「レコメンド」もTMRやマンガナイトではみんな頭を悩ませます。
マンガはとにかく、ジャンルや趣味の違いが大きい。加えて同じジャンルでも既刊・新刊あわせて、膨大な作品が発売されている。TMRでは「ランキングバトル」という企画も同人誌上で開催されており、TMRの黒川さん曰く「レコメンドは(ほかの人におもしろい作品をとられないよう)さぐりさぐり」とのこと。
そこでTMRでは「推薦レビュー」という企画も立ち上がりました。班員がほかの人に自分のおすすめを読んでもらってレビューしてもらうというもの。「もちろん趣味があわないので、ぼろぼろにいわれる」(マロさん)ようですが、普段読まないものが読める楽しさがあるとの声も。山内も「その人らしくないものを薦めてくるのがおもしろい」といいます。
紙のマンガで育った世代が多いマンガナイトとして、気になるのは現役大学生の「ウェブマンガ」とのつきあい方です。
結果として想像以上にいろいろなサイトを楽しんでいることがわかりました。
「タブレットで週刊Dモーニングと少年ジャンプ+を読む」という福田さんから「新都社も読む」という溝さんまで。ウェブ連載作品の単行本を買うか、という話にも広がりました。
ここで参加者から「単行本を所有したいという思いはないのか」というい質問が。これに対し「そもそも単行本まで買おうと思う作品は少ない」「初版は買う」と考え方は人それぞれ。ちなみの太田は「紙のほうが好き。おもしろい作品ほどおいておきたいけれど、家におけなくなったら人に貸す」という方針とのこと。マンガナイトメンバーの何人かは、この恩恵を受けています。
終了時間が迫ったところで、お待ちかねの「My best&2015年ヒット予測」へ。8人いて、一人も重ならなかったのは驚きでした。(以下敬称略)
『G戦場ヘヴンズドア』(日本橋ヨヲコ)
2人の高校生がマンガ家を目指す作品で「大学生のときに読んで、自分ももっと焦らなきゃと思わされた」
『聲の形』、『7つの大罪』、『鉄の王』など「最近週刊マガジンが好き」
『ヒカルの碁』(ほったゆみ、小畑健)
現実と同じ時間が流れており、週刊で読まなければと一度買うのをやめた週刊少年ジャンプを買い直すきっかけになった
『テンプリズム』
好きな作家の新作なので期待も込めて
『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(秋本治)
主人公の両さんの家族愛が出てくるエピソードが好き。休載がないので、最近単行本が厚くなってきている
『ニーチェ先生〜コンビニに、さとり世代の新人が舞い降りた』―好きではないけど、真顔で変なことをやる男性は受けるのだろうな、と思う
『働かないふたり』―好きなので売れてほしい
『うそつきリリィ』(小村あゆみ)
ギャグあり、シリアスあり。主役以外も丁寧に描く
『キリングバイツ』―原作の村田真哉さんに注目している
『星空のカラス』も伸びてほしい
普段から多くのマンガを読んでいる人が集まったことで、王道作品からツアー参加者が知らない作品も数多く飛び出しました。2015年に向けてのマンガライフの参考になれば幸いです。
ちなみに、同人誌の即席即売会をした後、ツアー参加者はキャンパス内にある生協(正式名称は東京大学消費生活協同組合駒場購買部)のマンガ売場へ。『ハイキュー!!』などヒット作だけでなく、「東大らしい」と感じられるマイナー作品もならんでいました。