ポルシェに流れるヨーロッパ車の芸術性、趣味性

実用性や利便性の追求。プロダクトにとってそれは間違いなく重要なファクターではある。が、しかし。こと、ライフスタイルと密接につながっている「クルマ」において、私たちを惹きつけるのは必ずしもそこに還元できるものばかりではない。趣味・関心、重きを置くモノ・コトが様々であるように、「クルマ」の魅力もまた多種多彩であり、麻宮騎亜『彼女のカレラ』は、比肩ないほどに高い“趣味性”を有する「ポルシェ」という存在を介して、そんなことを改めて気づかせてくれる作品だ。

父の形見として「ポルシェ911(964型)カレラRS」を譲り受け、ポルシェ・オーナーとなった主人公の轟麗菜(とどろき れいな)。だがその車体は彼女にとって熾烈なものだった。リアシート、エアコン、オーディオが外され、軽量化されたレーシングバージョン。マイナートラブルが頻繁に起きる上、街中での操作性は想像を絶するほどの悪さ。マニュアル車を運転することすらなかった彼女にとって、その価値を理解できるわけはなかった。だが、ポルシェのオーナーズクラブの仲間たちに支えられツーリングやサーキットに参加するうち、高い趣味性をもつポルシェの魅力に惹かれていくのだった。

ある種の「合理性」の埒外にあるともいえる、ポルシェに流れるヨーロッパ車の芸術性や趣味性。それをいつくしみたのしむ「クルマファン」に許された贅沢を、この作品を通して堪能できることは間違いない。

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文=凹田カズナリ
街の文化を支える書店チェーンで勤務。平和台→早稲田→五反田店でコミック担当を歴任。現場で仕入れた知識を広めるべくマンガナイトにも参画。2011年~「このマンガがすごい!」「このマンガを読め」にもアンケートを寄稿。日本橋ヨヲコ、鶴田謙二、長田悠幸、阿部共実、きくち正太、山田穣、谷川史子、堀井貴介、沙村広明、松本藍、篠房六郎(敬称略・順不同)を筆頭にオールジャンル好きな漫画多数。