テレビドラマ「泣くな、はらちゃん」が 拡張するマンガの世界

驚いた。これはテレビドラマ作品だが、中心にはマンガがあってそこから物語が広がり、そしてテレビドラマを周知させるため、ウェブサイトではもちろんウェブマンガが読めるのだ。

告知用TwitterアカウントやFacebookページといったSNSでは、スタッフブログや制作の裏話なども楽しめる。

映像、マンガ、舞台、ウェブ、ウェブマンガ、ソーシャルメディア… ひとつのストーリーで一体どこまで拡張していくのだろうか。

これは2013年1月19日に日本テレビで放送がスタートしたテレビドラマ「泣くな、はらちゃん」のことだ。
ドラマの主人公は大人しい性格の越前さん(麻生久美子)。彼女は勤務先のかまぼこ工場での人間関係からストレスを抱えていたが、あまり口に出して主張するタイプではないのか、愚痴や主張をぐりぐりとマンガとして描くことで発散していた。

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「泣くな、はらちゃん」公式サイトより

そのマンガの主人公がはらちゃん(長瀬智也)だ。ひょんなことからはらちゃんはマンガの世界から現実世界へと飛び出し、越前さんの前に現れる。

描かれている舞台は居酒屋のコマのみなので、その居酒屋がはらちゃんと他の登場人物たちの世界の全てであり、世界を描く越前さんは神様としてドラマでは描かれている。

一つの物語であらゆるメディアを巻き込み、メディアミックスというよりはもはや“メディアのサラダボウル”状態な同作品。
マンガの世界から見たこちら側(現実世界)を描くことで、テレビの前にいる私たちをもその中に取り込もうとしている。
そして、それを描くにはマンガよりも映像のほうが適しているのかもしれない。

これまで、マンガを原作に映像化や舞台化することはあっても、ドラマの作中でマンガを題材として扱い、このような形で拡張させていく作品は無かったのではないだろうか。

さらに注目したいのが、作中のマンガ部分や全てのイラストを手がける漫画家・ビブオだ。

『ビビトトレーハ氏の招待』で「月刊IKKI」(小学館)の新人賞・第38回イキマンを受賞後、2010年に『シャンハイチャ—リー』を発表。ハイテンション兄弟ハートフルコメディと、愛くるしいキャラクターを描き漫画家としてデビューしたが、期待していた続編は刊行されずじまいだった。

物語で明かされていない部分も多く、続編が無いこと自体にも、新たなマンガが発表されないことにも、残念な気持ちで過ごすこと2年以上——しかしここで突如として返り咲き。

天晴な気持ちでもある。

ドラマ放送後はウェブ上で「絵を描いている人は誰?」「マンガの絵もいい」という評判も。ビブオのTwitterアカウントをみてみると、ドラマの初回放送後にフォロワー数が急上昇し、およそ400ほどだったフォロワー数は2000を超えた。
知名度も上がり、漫画家として新たな飛躍を期待せざるを得ない。

一体どういったいきさつで、ビブオがドラマのマンガ部分を手がけることになったかはわからないが、ふだんマンガを読まない層にもさらりと響く、親しみやすくキュートな絵柄が視聴者の心を掴んだのは間違いない。

ビブオが描いたマンガ部分は、「泣くな、はらちゃん」ウェブサイトに「越前さんの漫画ノート」として掲載されている。
放送終了後にドラマに登場したものがウェブ掲載され、視聴者はウェブとドラマを行き来するのだ。

「泣くな、はらちゃん」はコミックスが存在するわけではないが、マンガ部分が気になった人はビブオの名前を検索し、『シャンハイチャ—リー』に辿り着く。

さらに一歩進めば、「月刊IKKI」とは何ぞや、他の掲載作品は何なのか、ちょっと見てみようか… となる(ことに期待したい)。

この相互拡張性は今後の一つの指標となるかもしれない。

関連サイト
IKKI公式サイト[イキパラ]
「泣くな、はらちゃん」

kawamata
文=川俣綾加
1984年生まれ福岡県出身。フリーライター、猫飼い。岡田モフリシャス名義で「小雪の怒ってなどいない!!」を「いぬのきもち ねこのきもち WEB MAGAZINE」にて連載中。ライターとしてのジャンルは漫画、アニメ、デザインなど。冒険も恋愛もホラーもSFも雑多に好きですが最終的になんとなく落ち着くのは笑える作品。人生の書は岡田あーみん作品とCLAMP作品です。個人ブログ「自分です。