舞台は人間に代わって機械たちが殺し合った「代理戦争」終結後の空想近未来。かつて世界有数の工業都市であったチェスターバレーでは、代理戦争時の負の遺産である自律思考型戦争兵器”ギガンテス”がいまだ稼働し続け、人の侵入を拒み続けている。しかし人間はそこに残る大量の金属資源を捨て置くことができず、極地使用型工業アンドロイドを作り回収にあたらせていた。
財閥の令嬢レイチェルは、幼いながら金属を回収し終えると溶鉱炉で回収した金属とともに還元されてしまう工業アンドロイドを不憫に思い、これらを助けようと試みる。彼女が単身チェスターバレーに飛行機で立ち入るところから物語は始まる。主人公レイチェルの行動力は幼い頃から抜群。周囲を巻き込みひっかき回すが、周囲の心配などどこ吹く風。父親は娘が屋敷からいなくなるたび何度も肝を冷やしている。
世界設定もユニークだ。ロボットを作る技術力を持ちながら、プラスチックのような合成樹脂は発明されていない。木や石やガラス、金属など年月を経ても汚くならない素材で構成される世界。産業革命時代のような雰囲気で、近未来にもかかわらずどこか懐かしさすら感じさせる。「レトロフューチャーSF」との謳い文句も納得だ。
レイチェルのチェスターバレーでの冒険に付き合わされるのは、アンドロイドのコンビ、マックスとアレックスだ。「あぶない刑事」のタカとユウジコンビのような不良アンドロイドコンビ。レイチェルとの掛け合いは、兄2人妹1人の兄妹のようでもあるが、たまに主人と従者の関係が混じる。また、お嬢様の行動というものは“風の谷のナウシカ嬢”よろしく、強い魅力を持ち得る。
マックスとアレックスはチェスターバレーで、もともともプログラミングにしたがって金属回収(口から食べて体内に貯蔵する)をしていたが、レイチェルによってその行動を禁止されてしまう。しかし、この不良アンドロイドコンビはレイチェルの命令に逆らい、隙あらば金属を回収し(食べ)ようとする。ロボットは人間の命令に逆らえないので2人のAI(人工知能)は混乱してしまうのだが、この葛藤の機微が上手く描かれている。ロボット系のSF作品は、人間やロボットの本質やその差異としての「魂」や「ココロ」をあぶり出すものなのだ。
ところで、ロボット工学三原則をご存知だろうか? ロボット工学三原則とは、アイザック・アシモフのSF小説において、ロボットが従うべきとして示された原則で、人間への安全性・命令への服従・自己防衛を目的とする3つの原則から成る。
第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
高度に設計・製造されたロボットは人間以上に人間らしい容姿で、人間らしい行動をとる。感情やココロの模倣もまた然り。言い換えるなら「ロボット工学三原則」と矛盾する場面に遭遇することがあるのだ。第1話では、アンドロイドは「人間を犠牲にするか、アンドロイド自身を犠牲にするか」という問題に突き当たることになる。アンドロイドのAIは原則に従い後者を選択するが、幼いレイチェルは納得できずその選択を却下する。それでも、アンドロイドは自らの意思で自分たちを犠牲にするほうを選択する。だが、もしレイチェルが命の危険に晒され、犯人を殺さなければ助けられない状況に陥ったとき、この心優しきアンドロイドたちはどのような行動をとるのだろうか?
そのほかにも、ロボット工学三原則に反するロボット=ギガンテスは、一体誰が何のために作り出したのかなど、いくつかの謎や疑問がこれからの物語の展開を多層化していくうえでのキーとなるはずだ。さらには、ロボット「ココロ」の在り方をいかに描ききれるか、それがこの作品の評価を高めていくうえでの分水嶺となるだろう。