そのひとつが現在「月刊IKKI」(小学館)で連載中の『BABEL』だ。
舞台は2050年の世界。あらゆる書籍が電子化され「ビブリオテック」という電子書籍のネットワークシステム、仮想都市に統合されている。世界中のコンテンツがひとつになることで、浮かび上がるデジタルならではの「不具合」。主人公の父親らは、それを隠された大いなる謎だと考え、読み解こうとする。成長した主人公も、志を継ぎ、「隠された意図」を解明しようとするが——。書物に隠された意図を読み解くという点では、イエス・キリストらの謎に迫る「死海文書の謎を解く」(講談社)や超古代文明についてノンフィクション『神々の指紋』(小学館)、絵画に隠されたダ・ヴィンチのメッセージを読み解く『ダ・ヴィンチ・コード』(角川書店)などミステリー作品を彷彿とさせる。
同時に興味深いのは、紙の本や電子書籍の描かれ方だ。学校では一人ずつ電子ペーパーを持ち、「読書」や勉強はすべてこれで行う。紙の本は「ペーパーバック」と呼ばれ、非常に高価でレトロなものとして描かれている。この点は、川原泉のSF作品『ブレーメンⅡ』(白泉社)と共通するところだ。電子書籍の普及開始を2000年代のはじめに設定するなど、現実の流れの少し先を「SF=”society” fiction」として、「こうなるのでは」という予測も含めて描いているように思える。
かつて子どもたちの夢を描いた『ドラえもん』や『ひみつのアッコちゃん』の秘密道具は、日本科学未来館で開催されている企画展「科学で体験するマンガ展」で最新の科学技術を使って表現された。「ビブリオテック」のようなネットワークシステムも、いつの日か現実になるかもしれない。その日のために、「このようになったら自分はどう思うか」を想像するために読んでも、考えさせられることがあるだろう。
またこの作品の特徴は出版形態にもある。2012年8月現在、雑誌で連載中だが、最初は書き下ろしの単行本で発売された。かつて戦後のマンガ市場が形成されつつあった時代、貸本屋の単行本で人気の出た作家の作品を、雑誌で連載するという動きがあった。これが才能を発掘し、連載マンガ家を育てる一手段となっていた。マンガ販売の主力が単行本中心になっている今、単行本で人気を計ってから連載するという方法は、再び新人育成の手法となる可能性がある。