私が最近見つけた深化の一例が、「ジャンプ・スクエア」(集英社)で連載中の『放課後の王子様』。「週刊少年ジャンプ」で連載していた(現在は「ジャンプ・スクエア」で連載中)『テニスの王子様』を元にしたギャグマンガだ。
中身はテニスの王子様の主人公、越前リョーマら登場人物の日常を描いた4コママンガ。本編の『テニスの王子様』ではかっこよく描かれているリョーマらが、学校生活や練習で手塚国光部長らとバカをやったり、ライバル校の氷帝学園主将、跡部景吾がお金を使ってとんでもないことをやったりする。絵柄も本編のスタイリッシュな線ではなく、ギャグマンガのように造形がやや崩れ、線も少なくなっている。ちなみにテニスの試合(通常・超人版)はほとんどしない。本編のファンの中には「イメージが崩れる」と反発する人もいるだろうが、私が初めてこれを読んだときは、おもしろいと思うと同時に「これってコミックマーケットなど同人即売会で売られる二次創作でないの?」と思った。(もちろん作者の許斐剛が原案・監修となっていて、集英社から出ているので「公認」のはず)
もともと『テニスの王子様』でも試合のあとに主人公のリョーマが所属する青春学園のメンバーと、ライバル校の選手が一緒に焼き肉を食べに行ったり海辺ですいか割りをしたりなどのエピソードがあったので、作者も試合や練習以外を描くことが嫌いではないのだと思う。『放課後の王子様』の作者、佐倉ケンイチも 本編を読み込んでいるようで、キャラクターの性格などにも齟齬はない。
『放課後の王子様』がやっている、「本編で出てこないことやその関係を妄想してマンガ(や小説)にする」こと。私はこの行為は、同人誌市場で育ってきたものだろうと思う。また、物語性の高い作品からキャラクターだけを取り出して4コママンガにすることは、ゲーム「ドラゴンクエスト」を元にした4コママンガなどマンガ史の中でも伝統的な行為だ。物語に登場するキャラクターが強いからこそできることでもある。
もちろん本来の意味での創作の同人誌も活況だ。よしながふみら同人誌出身のマンガ家も数多く活躍している。同人誌即売会のコミティアは100回目を迎え、商業誌で活躍するマンガ家も出展。二次創作をしながらオリジナルのイラストなどを描く人も多い。
同人誌市場は確かに商業出版から見れば異端であり傍流だ。しかし松岡正剛をして「文豪」といわしめた手塚治虫など今の日本のマンガ市場を作り上げた人々は、当時のマンガ業界では傍流だった大阪の「赤本」から登場した。同人誌と商業誌の関係の深化は、傍流だった同人誌文化が力を持ち始めた証左といえるのではないか。