「ブックガイド・ドラマ」は出版業界にとって朗報となるか?

『花もて語れ』『図書館の主』といった「ブックガイド・コミック」が増えている。
小説などの他の作品が物語に登場し、読み進めることで物語を楽しめるだけでなく、他の作品にも触れられるためブックガイドとしての役割も担っているもので、数々の人気作品を生み出している。
そして「ブックガイド・ノベル」としては、『ビブリア古書堂の事件手帖』は随一だ。

『ビブリア古書堂の事件手帖』は鎌倉にある古書店「ビブリア古書堂」を舞台に、女店主の篠川栞子と、本が読めない体質をもつ五浦大輔が、古書とそれに関わる人に起きる謎を解くヒューマンミステリ。江ノ電や美しい海を連想させる鎌倉という場所のチョイス、古書、そして美しい女店主という要素もまた物語を盛り上げてくれる。

同作品は1月からフジテレビ系の月9枠でドラマ化。ライトノベルはこれまでも映画化やドラマ化などの実写化はあったが、都会的・現代的・若者向けなこのトレンディドラマ枠の原作にラノベ文芸が選ばれたのは、ライトノベルの存在が作品数も売れ行きも大きな存在となっていることが伺えるだろう。

この『ビブリア古書堂の事件手帖』ドラマ化には、清楚・黒髪ロング・巨乳のヒロインの栞子とは真逆のイメージである剛力彩芽がキャスティングされたことでも、悪い意味で話題になった。原作が人気であっただけに、反発が大きかった。

このキャスティングは「テレビ業界側が売り出したい役者」であり、決して役柄に沿ったものではない。
原作のカバーに描かれている栞子は、決してこちらを向かない。深窓の令嬢を思わせる横顔と、溌剌としたイメージの剛力彩芽では役と本人の間にギャップが大きすぎたようだ。
実際にドラマ版はどうなのだろうか。初回視聴率は14.3%、7話までの視聴率は平均12.0%で、数字としては悪くない。

さらには、『それから』(夏目漱石)、『晩年』(太宰治)、『せどり男爵数奇譚』(梶山季之)といった、作中で登場した作品がドラマ放送後より売れたという事実がある。なかには、絶版作品の復刊が決まったものもある。
ドラマ視聴者が原作に着目したわけではなく、作中に登場した作品に注目が集まっているといえるだろう。

原作が好きな読者にとって、好きな作品が思わぬ改変や、イメージと異なる俳優によって広がるのは複雑なところと感じてしまいがちだ。
しかし、本の“新たな読者の獲得”をおおいに達成したことは「ブックガイド・ドラマ」として、出版業界にとって朗報には違いない。

文庫版だと作中に登場した本の売上げ増は、記憶の限り無かった。では、なぜドラマ版だと可能だったのだろうか?

それは映像で「本を見る」こと、これによる身体性だ。

文庫版の物語の中で、作品タイトルやあらすじを文字として追っていると、あくまで作中の文字列の一つとして認識される。

だが、映像として実際にモノとしての本が登場すれば、視聴者は「商品」として認識し、「あの商品が買いたい」と考えたのではないだろうか。
手にとって、ページを開いて…… つまり「実際に自分の手で触れ、読みたい」、そう思わせることができたのが映像の力だったということだ。

「ブックガイド・コミック」も、同じ仕掛けが可能なのかもしれない。

マンガは文字列だけでなく、ビジュアルで表現することができる。
あらすじや魅力を紹介する「ブックガイド・コミック」は多いが、それだけではない本を手にした時の質感、におい、ぱらりとページをめくる音、手にした時の重み——モノとしての魅力。

CMで美味しそうにチョコレートを食べている俳優を見て、とろけるような舌触りとしみ込むような甘さを連想するように、本を「味わいたい」という気持ちを喚起する。

電子コミックがより流通するようになれば、作中でモノとしての本をアピールすることで電子版も売れる、という現象も考えられる。

マンガもノベルもドラマも、ガイドするだけではなく「次の行動」に結びつけることで、作品としてまた別の意味がもてるようになるのだ。

関連サイト
『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズ
マニアックでも売れる! “ビブリア古書堂効果”がすごい!(ダ・ヴィンチ電子ナビ)

kawamata
文=川俣綾加
1984年生まれ福岡県出身。フリーライター、猫飼い。岡田モフリシャス名義で「小雪の怒ってなどいない!!」を「いぬのきもち ねこのきもち WEB MAGAZINE」にて連載中。ライターとしてのジャンルは漫画、アニメ、デザインなど。冒険も恋愛もホラーもSFも雑多に好きですが最終的になんとなく落ち着くのは笑える作品。人生の書は岡田あーみん作品とCLAMP作品です。個人ブログ「自分です。